生老病死と現代研究班報告 「宗教と人権」という課題へ
(難波 教行 教学研究所所員)
現在、教学研究所は、真宗同朋会運動研究班、聖教研究班に加え、現代における〈いのち〉に関する諸課題を考究する「生老病死と現代」研究班の三班体制で研究業務を行っている。
「生老病死と現代」研究班がこの名において発足したのは約十年前、二〇一四年六月のことであるが、それ以前にも現代の諸問題に関わる研究班が立ち上がってきた。「教研だより」第一号が掲載された『真宗』一九九九年七月号には、教学研究所の研究体制の基本構造として「基礎教学部門」「歴史教学部門」「実践教学部門」の三部門が示され、「実践教学部門」の中に「生命倫理の研究」(一九九七年七月発足)が位置づけられている。以降、研究体制は変遷しつつも、その都度、現代の問題と対峙し、研究が進められてきた。本研究班名に改称の後は、よりいっそう時代社会の問題に向き合うべく、「人間の尊厳」「共生社会」「差別」など、特に人間の苦悩に関わるテーマに取り組み、各分野に精通する講師を招いた研究会を開催してきた。
試みに、近年の研究会を挙げると、以下の通りである。
・二〇二二年 小松美彦氏(東京大学大学院客員教授)「〈反延命〉主義」の淵源へ──生資本主義、生権力、人間の尊厳、そして〈いのち〉と〈生き方〉」(『教化研究』第一七〇号に講義録)
・二〇二三年 石原真衣氏(北海道大学准教授)「アイヌ民族を取り巻く差別問題と知識人の責務──共生社会におけるレイシズムと思想的消費をめぐって」(『教化研究』第一七三号に論文掲載予定)
・二〇二四年 荒井裕樹氏(二松学舎大学准教授)「「表現に宿るもの」と向き合う──被抑圧者の表現を読み解く」(『真宗』二〇二四年八月号「教研だより」に研究会報告)
教学研究所がこうしたテーマに向き合う意義はどこにあるのか。
もちろん、問題を把握するだけでは、教学の課題として受けとめ、共有していくことは難しい。しかし、苦悩に関わる現代の問題に真向かいになることがないならば、教学は教学たり得ない。忘れてはならないのは、聖教が、苦悩する人間の問題に応えんとして生まれてきたことである。したがって、教学研究所において現代の問題に取り組むことは、けっして聖教の学びと別であってはならない。
講師の講義や、所内研究職員の論考を通して思われるのは、包摂しているつもりでも、じっさいには差別・排除を生みだしている人間の問題である。その現実は「自損損他」や「穢土」といった言葉で教えられる通り、教学の課題である。一方で、現実社会の歴史を振り返れば、「人権」という概念がこの問題に対して大きな役割を果たしてきた。ならば「人権」をめぐって人間の問題を学ぶことは、教学の課題に繫がるはずである。
ただし、「なぜ人にだけ権利があるのか」「人権概念にはどのような歴史的経緯があるのか」など、改めて確かめなければならない事柄もある。さらに、現代の人権感覚をもつ私たちは、人権を大切に思うがゆえに、経言(仏説)に戸惑うこともある。人権を尊重しながら、経言を仏説として学ぶことは如何にして可能なのか。こういった問題は仏教だけでなく、宗教全体に関わると言わなければならない。
以上の問題意識から、本研究班では、現代の問題を教学の課題として学びつつ、「宗教と人権」という課題へ向かって取り組みをはじめている。
(教学研究所所員・難波教行)
([教研だより(221)]『真宗』2024年12月号より)