石川県白山市中町。松任駅に程近い千代尼通りという道沿いに聖興寺はある。江戸時代中期に活躍した俳人「加賀の千代女」の生まれた場所がこの松任であることから名付けられた通りだ。聖興寺は千代女ゆかりの寺として知られ、現在でもその遺品が残されている。
今年は千代女の二五〇回忌を迎え、様々な記念行事が行われた。境内の記念碑「千代尼塚」の前で法要が執り行われ、客殿では茶会が開かれたほか、金城大学短期大学部美術学科の学生が制作したプロジェクションマッピングの上映も実施された。
千代女の行事に限らず、聖興寺では主に音楽関係のイベントが頻繁に行われている。私も今回行われた「まちなかコンサート」に足を運んだが、本堂は二〇〇名以上の盛況ぶりであった。ご住職にこのようなイベントが行われるようになった経緯を伺うと、二十五年ほど前から地域商店街の人たちが町おこしのための行事を行いたいということで本堂を貸し出すようになり、特にコロナ下以降になってから様々なイベントでお寺を貸してほしいという要望が増えたそうだ。
「本堂は本来、仏事を行うための場所。だけど空いているときに利用したいという方がいれば、人集めは自分たちでしてと伝えて場所だけは提供している。元々お寺は文化の発信の場所でもあったから」とご住職は語る。
父親である前住職から引き継いだ行事も多い。その仕事を引き受けて継続していくことをご住職は意識している。前住職の「行事をやめるのは簡単なこと。しかし始めることは大変であり、継続していくことにはとても大きな意味がある」という言葉が胸に残っている。伝統の仏事を優先しつつも、地域のために柔軟に対応している様子がうかがえる。
ご住職に千代女が東本願寺で「親鸞聖人五百回御遠忌法要」の際に詠まれた俳句を教えていただいた。
葉も塵も ひとつ台や 雪の花
それぞれが救われていくという真宗の教えを、同じ蓮台の上でどのような葉にも塵にも等しく雪の花が降る様子として、俳句で詠まれたものだ。真宗の教えをいただいた妙好人でもある千代女によって、俳句という文化と交わって残される仏法もある。千代女の俳句から始まり、時代に応じて様々な文化の発信場所の役割を担っている聖興寺の姿を見せていただいた。
金沢教区通信員・藤 光弘
『真宗』2024年12月号「今月のお寺」より
ご紹介したお寺:金沢教区第四上組聖興寺(住職 中野 素)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しております。