津軽藩の城下町として発展した青森県弘前市ですが、さまざまな宗派のお寺が集まる新寺町と呼ばれる場所に、声楽をとおして多彩な活動を行っている明教寺があります。住職の三明智顕さんは高校時代から合唱をはじめ、大谷大学では混声・男声両方の合唱団に所属。男声合唱団では指揮者もつとめました。
大学卒業後も熱心に声楽に励み、組内の寺院で音楽法要を勤修したほか、青森県第二組仏教讃歌合唱団「響流朋友」の立ち上げ、弘前ねむの会ファミリーコーラス代表、小学校の合唱部のコーチなど宗派を超えた活動を行い、地元のラジオ局でもその活動を紹介されました。
取材の依頼をするためお電話をしたところ、ちょうど翌日にお寺で「エンゲキ寺子屋」を開催するとのことだったので、さっそく訪問しました。三明さんは昨年から「演劇ユニット一揆の星」に加入されたそうで、取材で訪れた日はボイストレーニングの講師を務めておられました。事前申し込みをしていれば、ご門徒に限らず誰でも参加できる場であり、実にさまざまな業種の方々がお寺に集まりましたが、その中にはなんと高校生の参加もありました。
この日は結婚式で歌われる機会も多い曲目のメロディがもととなっている「星の世界」を題材としたボイストレーニングでしたが、いきなり歌うのではなく、声がしっかりと出やすいように体のストレッチ、発声練習、顔や口の動きを整える準備などを参加者と一緒になって行ったほか、高音でも出しやすくするための声の調整方法なども伝授。体や喉が温まったところで、いよいよ「星の世界」に入っていきます。ここでも通常よりも高い音で発声する場合、抑揚をつけて歌う場合など、さまざまなケースを想定した歌い方を教えてくださいました。参加者が親しみやすく飽きない工夫をしているので、終始和気あいあいとした雰囲気です。最後に参加者からの質問もありましたが、歌い方以外にも、肺活量を上げるためのトレーニング方法など、日常生活で役立つこともたくさん教えてくださったのがとても印象に残りました。
ボイストレーニング終了後、三明さんにお話を伺うと、約二週間後に弘前市で行われる「もみじコンサート」にも出演なさるとのこと。もしお時間があればぜひいらしてくださいとのことだったので、こちらの方にも参加させていただきました。
「菊と紅葉まつり」が開催中の弘前城から、徒歩10分ほどの場所にある百石町展示館で開催された「第二回もみじコンサート」。主催が「弘前俳句をうたう実行委員会」ということもあり、俳句に関連する言葉がピアノの伴奏のもとで歌われました。三明さんはテノールを担当。「エンゲキ寺子屋」の時は参加者に合わせて声を出していたので、多少声を抑えていた部分もあったと思いますが、この日はまさに本領発揮といった感じで、今まで培ってきた声楽を、コンサートに集まった皆さまの前で発表しました。歌っている時の表情を見ても本当に楽しそうで、やりがいを感じているのがこちらにも伝わってきます。私自身、初めてこのコンサートに訪れたということもあり、会場に入る前はやや緊張しましたが、実際は気軽に入れる雰囲気で、観客の皆さまも非常に穏やかな様子で楽しんでいました。
取材の合間に、これまでの活動についての思いを三明さんに伺ったところ、「お勤め以外でもお寺に人が集まりやすい環境をこれからも作りたい。こういった活動ができることはありがたい」と笑顔で話してくださいました。音楽を通じた活動をさまざま行っていますが、新型コロナウイルスの流行以後、現在は休止している活動もあるそうで、それらの復活を含めて、今後どのような活動が自分にできるのか考えていきたいそうです。地元の弘前市を中心に活動の幅を広げている三明さんに今後も注目です。
(東北教区通信員 光井広顕)