伝道掲示板
愚痴とは過去にとらわれる心です
(木村無相)
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町を行くと、ひと際目を引く掲示板にそこここで出遇う。廣圓寺伝道掲示板である。黄色が目に鮮やかなこの掲示板は、廣圓寺を中心に直径約50キロ圏内に60余台が点在する。
廣圓寺住職の春日道雄氏がこの伝道掲示板を始めたのは昭和63年の冬、きっかけは他宗教の看板を目にしたことだ。門徒の教化を第1に考えた住職は、「廣圓寺門徒教化活動」として筆を執り、ご門徒宅への掲示板設置のお願いを始めた。
作業所を見せていただくと、まだ墨が乾き切らぬポスターが所狭しと並べてあった。どの文字もまろやかで、何より「言葉」がやさしい。
「やり直しのきかぬ人生であるが 見直す事ができる(金子大榮)」や「かたつむり どこで死んでも 我が家かな(小林一茶)」など、幅広く自分に響く言葉を選んでいるという。壁一面の書物は伝道掲示板のためのものだ。
時折、見知らぬ人がふらりと寺へ寄る。「あの掲示板のポスターがほしい」と申し出があると、快くお渡しする。大事な教化だから、誰にでも差し上げるという。また、掲示板を設置させていただいている家庭に、半年に1度、60枚のポスターを届ける。1週間で2枚ずつ交換すると、半年で60枚。それを60余カ所に届けるには半年で3,600枚が必要となる。毎日15枚以上書く。「私の行でもありますが、ご門徒の“ひとり”が読んでくれたらいい」。
住職の熱い思いに応える人がいる。建具職人の大関正蔵氏である。住職の良きパートナーだ。20余年前のある日、住職から相談を持ちかけられた。「軽くて丈夫で、ご門徒の家屋の壁に設置できる掲示板を安く作れないだろうか」。大関氏は奮起した。窓枠サッシを改良し、製作から取り付け、修理、メンテナンスまでを一手に引き受ける。
この取材の際にも、「掲示板が2台ありますよ。持っていきましょうか」と笑顔でおっしゃっていた。当初から利益を考えず、寄付という形で住職と二人三脚で踏ん張ってきた。掲示板の設置数が60台に到達したのを機に、新規設置は終了することになったが、今もメンテナンスで飛び回っている。「住職の青春時代から知っているからね。精力的にやってなさるから、自分も少しでも協力したいと思ったんだ」。
宗祖親鸞聖人750回御遠忌記念の品に、日めくりカレンダー「和顔愛語」を作成し、ご門徒に配布した。今後は自動車用や立体的なものを考えているという。「台所の隅っこ、柱の陰。偉そうなことは思わない。ご門徒に、日常の生活の中でほんの一瞬でいい、真実の言葉に出遇っていただきたい」。住職の教化活動はこれからも続く。
(三条教区通信員 石塚亜里)
『真宗』 2011年(8月)「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:三条教区第15組廣圓寺(住職 春日道雄)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。