遺族がかけてほしい言葉・傷つく言葉

文 : 木下 宏明(「千の風の会」(岐阜県自死遺族の会)代表)
木下宏明氏(「千の風の会」代表)
木下宏明(きのした ひろあき):「千の風の会」(岐阜県自死遺族の会)代表、岐阜県自殺総合対策協議会委員。社会福祉士

まず、基本的な関わりをめぐって考えておきたい課題について提起してみたいと思います。

 

♣当事者性をめぐる問題について~当事者の気持ちは当事者にしかわからない?~

これはよく話題になる事柄で、当事者の側からも当事者の人達と関わりを持とうとしている方々からも大きな問題として提起されることが多い様な気がします。

 

先の論稿(2018年7月15日記事)で少し触れたように、まだまだ偏見やスティグマ(※1)が地域に浸透している中では、当事者の方が非当事者の方からの心無い言葉に傷ついたという声を耳にすることも多々あります。

 

そんな中で、「当事者の気持ちは当事者にしかわからない」と言いたくなる気持ちは私にも理解できます。が、一方では「当事者にしかわからない!」という言葉を投げかけられて、関わりたい気持ちがあるにもかかわらず、なかなか関われないと戸惑っている良心的な人たちが存在しているのも確かです。

 

たしかに、その痛みや心情についてはその人固有のものですから、他人にはどうしてもわからない部分が存在すると思います。でも、それは当事者同士でも言えることのように思います。ご遺族の方も本当に様々でその心情も心の運びも違います。

 

私はその属性でもって「排除」しようするのではなく、違いを認めながら共に考えていこうとする「共感関係」を創り上げていく工夫をできないものかと思っているところです。

 

では、次にどんな工夫をすれば「共感関係」を作り出していけるのか、私なりに考えてみたいと思います。

 

 

♣まずはご遺族の方々の状況や思いを知る必要性が~「学習」「傾聴」「対話」の取り組みを~

最近は自殺対策基本法施行の影響があるからなのか、以前に比べると自死遺族に関わる資料や手記、書籍などが色々と出ています。またインターネット上でもご遺族やそれに関わる方々の声が様々のっています。

 

まずは先入観なしで目を通してみるととても参考になると思います。

 

ご遺族の心情もその背景や亡くなった方との続柄などによって微妙に違っていますし、「自死(自殺)」のとらえ方や「支援」「ケア」といった事柄についても色々な見解が提示されてきています。

 

まずはその「多様性」を受け止めることが大切なような気がします。そうすることで、ご遺族と関わる時に安易に「こういうものだ」と決めつけることが少なくなり、それぞれの方の「個別性」を大切にした関わりの出発点になるのではないかと思います。

 

その上でご遺族に出会った時にしっかりとその声に耳を傾けるいわゆる「傾聴」を土台にした関わりや、相手を大切にした「対話」などに繋がっていくといいなと思います。

 

 

♣日常的な関わりの中でのさりげない支援の大切さについて

 

つぎにこれまでの体験の中で、少し気になった事柄について提示してみたいと思います。

 

1つは、主観的「健全さ」を強要されてしまうことがときどきあります。

 

よく言われるのがご遺族の状況をあまり考えないで発せられる「前向きに頑張ろう」「いつまでもくよくよしないで」といったような言葉です。

 

相手の方は善意で言ってくださっている場合が多いのですが、ご遺族の方の「かなしみ」をもう少し認めていくような受け止め方も大切にしてほしいと思います。

 

これまで色々なご遺族の方の声を聞いてきましたが、一見明るく振る舞っている方でも、その「かなしみ」をじっと抱きしめて生きている方々が多い様な気がします。安易な励ましは、時としてご遺族を傷つける場合があるように思います。

 

 

しかし、あまり尻込みすることなく、相手のことをわかったふりをしないで、わかる範囲、できる範囲での真摯で率直な関わりでいいような気がします。日常的に誠実に関わっていく中でその範囲が広がっていくと思いますし、あまり腫れ物に触るような感じではなく、日常的なさりげない関わりの中でこそ信頼関係が作られていくように思います。

 

 

♣「自殺予防」をめぐって~予防的まなざしの危うさについての認識を~

 

もう一つ、提示しておきたいのは「自殺防止」「自殺をなくそう」といったような物言いがご遺族の心情を傷つけたり、複雑なものにすることがあるということです。

 

ご遺族の方にしてみれば、「自死」した方はかけがえのない大切なご家族です。

 

「自殺防止」「自殺をなくそう」などの言葉が、あまり注釈もなく一般的、抽象的に提示されたり、絶対命題として断定的に投げかけられたりすると、自死せざるを得なかったご家族の方を安易に全面否定されてしまったように感じてしまう場合があります。

 

ご遺族も決して「命の大切さ」について安易に考えているわけではありません。むしろ一般の方に比べても「いのちのかけがえのなさ」については身を持って痛切に感じているように思います。

 

だからこそ自死(自殺)について安易に語られることに違和感をおぼえるのだと思います。亡くなった方、故人の尊厳についても少し配慮した表現をしていただけるとうれしいです。

 

 

♣僧侶の方々への期待とお願い

 

最後に、僧侶の方々へのお願いとして1点、記しておきたいと思います。それは、法事や法要を取り組む際、ご遺族の状況に配慮した形で実施してほしいということです。

 

法事などは、折々の節目で故人との関わりや出来事について色々と整理していく契機になるという積極的な面を持っている一方で、否応なく亡くなった時のことを思い出してしまい苦しくなってしまう場合も多々あります(記念日反応(※2)など)。

 

また、自死を契機に家族間、親戚間などの関係が変化し、中には疎遠になってしまう場合もあり、法要を営むことがご遺族にとって大きな負担になる場合もあります。

 

慣例に縛られることなく、ご遺族それぞれの状況や意向に添った形で取り組んでいただけるとうれしいです。

(おしまい)

※1 スティグマ…他者や社会的集団によって個人に押し付けられた負の表象、烙印、ネガティブな意味でのレッテル

※2 記念日反応とは…亡くなった方の誕生日や命日、想い出のある日の前後など、故人のことをより強く思い起こさせるような時期に「喪失感」を心や身体で強く感じること


■岐阜自死遺族の会「千の風の会」の活動について

「千の風の会」は2009年1月に岐阜県と自死遺族当事者が協力しながら立ち上げた自死遺族の会です。色々と試行錯誤を続けながら活動を続けていますが主に3つの活動を軸にしながら展開しています。

1つは自死遺族の方が安心してその思いを語り、また他のご遺族の声に耳を傾けながら支え合っていくという「分かち合いの会」を取り組んでいます。

2つ目は遺族同士がざっくばらんに交流できる場をつくろうと「ピアカフェ」と銘打って様々な企画をたてて取り組んでいます。これまでの取り組みで言えば、お茶会をはじめ、料理教室や体操教室、ハイキング、1泊旅行など会の皆さんの要望を聞きながら楽しんでいます。

3つ目の取り組みは、当事者による相談活動です。大変な思いを抱えているご遺族の方の思いや声を個別に少数の当事者がきちんと耳を傾けながら支えていくという活動です。「サポートスペースれんげ草」と名付けて活動しています。

同じような体験をした仲間が支え合いながら、お互いを尊重しながら活動を続けています。気が向いたらぜひ声をかけてみてください。

問合せ先 : 岐阜市鷺山向井2563-18 岐阜県精神保健福祉センター

電  話 : 058-231-9724

 岐阜県公式ホームページ「身近な人の自殺を経験した人に」

■参考

自殺対策基本法(平成十八年法律第八十五号)[厚生労働省HP※PDFが開きます]