２０００（平成１２）年 真宗の生活 ６月 【浄土】
＜見失った「浄土」＞
大逆事件〈一九一〇年（明治四十三）〉に連座した真宗僧侶・高木顕明師は、一九〇四年（明治三十七）、日露戦争に際し、「余が社会主義」という一文をあらわされています。「極楽世界には他方之国土を侵害したと云う事も聞かねば、義の為に大戦争を起したと云う事も一切聞れた事はない。依て余は非開戦論者である。戦争は極楽の分人の成す事では無いと思うて居る」と、「非戦」を宣言されています。貧困にあえぐ門徒民衆とともに生きんとするなかで、浄土真宗の教えを聞きとどけようとした一人の真宗念仏者の言葉として、今も新しく感じられます。
この言葉は、私の本国は「浄土（極楽）」であり、私は「浄土の住人」たらんとする者であり「皇国の臣民」ではない、という宣言ではないでしようか。戦場となった中国では多くの民衆が犠牲になりました。この時代を高木顕明師は、「実に濁世である。苦界である。闇夜である」と見抜き、「諸君よ願わくは我等と共に此の南無阿弥陀仏を唱へ給ひ。今且らく戦勝を弄び万歳を叫ぶ事を止めよ」と呼ぴかけました。
「念仏者は、浄土と穢土に席を置いて一身を生きるものである」というある先輩の言葉があります。これは、穢土において浄土を根拠として生きるということでしよう。浄土は如来の智慧のハタラク領域、穢土は人間の分別のハタラク領域です。その分別の正体が知らされることが浄土のハタラキに出遇うということなのです。人間の分別は自国のためならば、侵略にも大義名分を作り、正当化してはばかりません。人間の分別にたった生き方が全体として批判される根拠を持つこと、それが浄土建立の意味ではないでしようか。
『真宗の生活 ２０００年 ６月』【浄土】「見失った「浄土」」
