蓮如上人は、室町時代(西暦1400年代)という、日本が内乱に明け暮れ、また天災や疫病、飢饉のあいついだ、いろんな意味で人間が生きていくうえに困難な時代に、85年というながい生涯を生きられました。
とおきはちかき道理 ちかきは遠き道理 燈台本くらし
この言葉は蓮如上人の残されたお言葉のひとつです。人間にとって、一番近くにある存在はなんでしょうか。それは、言うまでもなく、私自身(わが身)でありましょう。しかし、蓮如上人はおっしゃいます。一番近いものが一番遠いと。遠いということは、いつも見えていない、いつも忘れて生きている、ということでしょう。「燈台本くらし」とは、そういう私たちの日常性をあらわしている言葉です。
ある年の真夏の夕方、用事があって友人のAさんの家を訪ねたことがありました。Aさんのお母さんは、冷蔵庫から冷えたビールにそえて、ビニールの袋にはいったピーナツを出してくれました。Aさんは、そのピーナツの袋を破ろうとするのですが、どうしても破れないのです。カッとなったAさんは、その袋を床にたたきつけて言いました。「なぜもっと破れやすい袋に入れておかないのだ」と。たたきつけられた袋をよく見ると、左上のほうに切り口があって、そこに<ここから開く>と書いてあるのです。そこをひっぱると、力を入れるまでもなく、スーッと開くことができました。袋が破れないのは、袋に原因があるのでしょうか。ささやかな出来事でしたが、なぜか忘れられない想い出です。
人間は自分の足もとの暗さに気づくことがなければ、自分を弁解(いいわけ)し、相手を責める世界しかありません。それは、人間として、とても悲しく淋しい生き方ではないでしょうか。しかし、この一番近くにある私は、私の眼で見ることができず、私の智恵でも知ることができません。そこに、どうしても、人間の眼や智恵のほかに、向こうから、この私の足もとを照らし、呼びかけてくださるはたらきに出遇うことが大事です。そのはたらきをナムアミダブツとも言い、ほとけさまの智慧とも、眼ともいいます。親鸞聖人や蓮如上人のお言葉がほとけさまの智慧、ほとけさまの眼なのです。
「ほとけの子」 おしえのしおり 蓮如さま -真宗人物シリーズー
『燈台本くらし-蓮如さま-』(金沢教区 松本梶丸)