明治時代から続く伝統
北海道教区では、地域の寺院が巡回して法座を開催する線を組み、その線に属する寺院へ布教師を派遣して、定期的に聞法会を開いてきた。この取り組みが始まったのは、明治時代後期の北海道開拓にまで遡り、本州から開拓のために移住したご門徒の寄合所となっていた寺院で、集まられたご門徒に宗祖の教えに遇っていただきたいという願いから始まった。
また、1909(明治42)年には、婦人法話会北海道分会が発足。翌1910(明治43)年までの僅か1年間に、会員6000人余りを数える大規模な聞法組織が構築された。そして、道内に14の支部が設置され、各支部や支場を拠点として定例巡回講演が実施され、後に「大谷婦人会定例線」として各地域に重要な聞法拠点を設けることに繋がっていった。
その後、昭和27年には、各地域の婦人定例線をはじめとする定例線全てを教区において集約し、さらに新たに設置された定例線を加えて、「教区定例法座」が発足することとなった。この教区が一手に定例線を集約し調整を図ることによって、教区が全体の定例法座の日程を把握するとともに、巡回講師の日程調整や依頼などを担い、開席寺院の負担軽減と法座維持に繋がったという。
現在では、その「教区定例法座」の形を維持しつつ、派遣する講師についても教区で「定例講師研修会」を開催して事前学習の場を設けるなどの工夫を講じ、道内全域で合計13本(札幌市内線を除く)の定例線が組まれ、222の寺院・教会及び別院が所属している。
自らが育てていただいているという講師の意識
各寺院で開かれる定例法座は、3ヵ月ごとに教区全体で同じテーマが定められており、現在は、『歎異抄』の「師訓編(前序から第10章まで)」を一章ずつテーマとしている。これまでには、『正信偈』や『真宗大谷派勤行集(赤本)』に掲載されている『和讃』をテーマとして法座を開いたこともある。
講師として派遣される方は、必ず派遣される前の月に開催される「定例講師研修会」へ参加する取り決めとなっており、約2時間に亘って講義や協議会を通じて学習を深める。「定例講師研修会」の講師は教区教学研究所長をはじめとする教区内学識経験者が務められ、約2時間の限られた時間ではあるが、テーマとなる聖教の注目すべき視点を丁寧に確認するなど、充実した学習の場が開かれている。
北海道教区は道内全域に及ぶため、各組から札幌にある教務所までの移動距離も相当なものになる。当然、道内を飛ぶ飛行機を利用しなければならない地域もあり、定例法座の講師にとっては事前学習へ出席することも多大な労力がかかる。まして、法座の講師として出向する場所も近隣組に限られているわけではなく、どれだけ出向者の予定にあわせて日程を調整したとしても、道内全域のあらゆる寺院へ派遣されることを思えば、複数日に亘って自坊を空けなければならない。それでも、講師を受けることが負担だという声を漏らす講師は皆無に等しい。
僧侶の意識-使命と責任-
各地区のご門徒は、聞法会を大事に思ってお寺までお越しなられて、一生懸命に聴聞してくださっている。そのように安心してお話しさせていただける場を、自分たちの先達が開かれ、100年以上に亘って続けて来られた。だからこそ、自分たちには、事前学習を通じて自ら聴聞し、先んじてお聞かせいただいたことをご門徒へお伝えする責任がある。講師を務められる方々は皆、そのような思いを携えて事前学習に参加されている。
聴聞に来られるご門徒の姿勢によって、使命と責任を真摯に受けとめる僧侶の意識が育まれ、各寺院の聞法の会座が開かれ維持されている。まさに、仏法が「経(たていと)」となり、僧侶と門徒との協力が「緯(よこいと)」となって、各寺院における聞法の会座を紡いでこられたと言えるだろう。
若手のコミュニティの充実と学習意欲を生かす土壌
若手のコミュニティが充実していることも、僧侶の学習意欲を高めることに関係しているように思われる。
北海道教区では、教師補任後5年以内の方を対象とした「新任教師研修会」という事業が実施されており、教区内全域の近い世代の方々が交流する場として機能している。そういった場において交流を深めることにより、広域に亘る教区でありながら、地域を超えた同世代の関係が構築され、同世代のネットワークが広がっていくことに寄与していると言われている。
併せて、「教化本部」や「教区教学研究所」などで出会った方々で形成されたコミュニティを通じて、自主的に若手が集まって学習会を開くことも珍しいことではないとのことで、自主学習会の場では、お聖教の講読を通じて、祖師のご了解を正確に押さえていくような教学研鑽が積まれているという。これまでにも、『選択集』などをテキストとした自主学習の場が開かれてきたが、そういったテキストについても、若手が「学習してみたい」と思い立って選んできたとのことであり、教区の若手に学習意欲が溢れている様子が伺われる。
世代を超えた協力体制
若手の学習意欲を、壮年層の住職方も積極的に受けとめられており、教区内の学識経験者がオブザーバーとなって、若手の学習に協力することも少なくない。若手を青壮年層の先輩が、教区や組などのコミュニティへと積極的に誘い、若手の意欲を支える形で協力し互いに仲間として認め合う。そういった、世代間を超えた関係も強く築かれているのが、北海道教区の大きな特色であるとも思われる。
若手の方の一人は、「北海道教区には、同志のコミュニティや学習の場が、もともと至る所に設けられていて、教学研鑽を積む場がどこにも無いという悩みを抱えたことがない。そういった場を開き続けてこられた教区の先輩方の姿を見て、自分たちも受け継いでいこうと思っただけのことだ」という。北海道には厳しい自然環境と共存するために、寺院同士・寺院門徒間で互いに支えあってきた関係性が残っている。あらゆる人々を包み込んでいくようなコミュニティが、若手の学習意欲をより一層高めることに大きな役割を果たしている。