【若手の坊守役員の提案からはじまった】
京都教区坊守会では、2013年度から「カフェ」のような和んだ雰囲気の中で、日常の疑問や悩みを打ち明け合いながら、課題共有をすることを目的として、「ときわカフェ」という場を開いています。
この取り組みは、2013年度の教区坊守会の総会で、丹但地区(丹波第1組・丹波第2組・丹波第3組・但馬組で構成する地区)の若手の坊守役員から、いわゆる「研修会」の体裁ではなく、質問することすら憚ってしまう坊守の声に耳を傾け、素朴な疑問や悩みを打ち明けながら、確かめ合っていく場を開きたいと提案を受けたことから始まりました。教区坊守会総会の席では、寄せられた意見を受けとめて役員会でさらに検討することが約束され、2013年度の上半期に集中的に協議を重ねた末に実施に漕ぎ着けたのだそうです。
仲野緑教区坊守会長は、
当初、全く不安が無かった訳ではありませんでしたが、若い方々が交流できる場所は必要だと感じていました。若坊守会を設置した方がいいのではと考えた時期もありましたが、役員会では、性別や立場を問わずに、誰もが参加できる場所の方がいいという方向になり、現在のような事業形態で実施することになったのです
と当時を振り返られていました。
また、運営組織についても、教区坊守会や教区坊守会役員が担うのではなく、実行委員会を立ち上げて、企画の立案から運営までを一気に担っています。
実行委員は、発足当初に実行委員を担った丹但地区の坊守に加え、前年度の参加者の中から有志を募って人員を集めて構成しているそうで、企画立案や運営をする方々の意志や構想を最大限に尊重するために、あえて当番制にしなかったのだそうです。
より身近な課題に注目し、気兼ねなく参加できる雰囲気を作るためにも、企画運営するスタッフ本人も楽しみながら場を創造していくことができるよう、有志による実行委員会を組織することが最も理に適っているとのことでした。
【誰もが話しやすい雰囲気を作る】
「ときわカフェ」の大きな特徴は、通常の研修会とは異なって、講師の講義が無く、最後の全体協議の場で助言者から発言をいただくことにあります。
いわゆる研修会では、講師の講義を踏まえて座談会や全体協議の時間を持つことが多く、最終的に講師への質問だけが集中して、参加者同士の「横の繋がり」が見出せないこともよくあります。
そこで、「ときわカフェ」は、普段は質問しづらいと思うような素朴な疑問を出し合って、視点を確認していくため、確認が必要なものは各班での協議の時間に取り纏めて日程の最後に助言者へ質問するようにしており、内容の重心を参加者同士の話し合いに置いているのだそうです。
そして、その話し合いをリラックスした雰囲気で行うために、班別協議に入る前のアイスブレイク(弛緩を促すようなゲーム)を取り入れ、班別協議についても「カフェ」のようにコーヒーやお菓子を用意し、フレームワークの手法を用いて話し合いを進めるなどの工夫が凝らされていました。
アイスブレイクでは、「究極の選択クイズ」と題して、「住職が通夜に出かけるので夕食を作っていると、門徒さんが深刻な顔をしてやってきました。さて、あなたは住職の夕食の準備と門徒さんの応対のどちらを優先しますか?」というようなクイズ形式で考えるゲームが行われました。クイズの内容が、誰もがお寺の生活で経験したことがあるような話題であったためか、会場からは笑いが絶えず一気に打ち解けた空気になっていました。
また、班別協議では、ブレーンストーミングの原則に基づき、他の人の意見を否定せず、ふと思いついたことでも積極的に発言し、結論を急ぐことはしないといった寛容な場づくりをするとともに、守秘義務の徹底や発言時間の制限などのルールを設けられていたため、どの班も意見が絶えず「もっと続けたい」という声も寄せられていました。
フレームワークについても、「お寺と私」というテーマに基づいて
①「よかったこと」
②「悪かったこと」
③「助言者や他の班へ質問したいこと」
④「住職へ一言メッセージ」
というフレームを書いた模造紙に、自分の意見を書いた付箋を張り付けるという作業をしたため、「書くことによって自分の意見が整理できた」、「口では言い出しにくいことも書けた」という意見も寄せられました。
【参加を促すための配慮】
そして、「ときわカフェ」の工夫は、内容だけではなく参加者の視点に立って、参加者に対するサポートや参加者に楽しんでいただくための要素などに及ぶまで、きめ細やかな配慮が施されていました。
参加者に対するサポートとして、「ときわカフェ」には、小さな子ども連れの方にも参加していただけるように、保育士に依頼して託児所が設置されていました。もちろん、会場に一緒に居たいという方については、預けていただかなくても構わないとのことですが、子どもが動き回るのに気を取られて安心して参加できないという方には、利用していただくことができるように準備しているのだそうです。特に若い世代の方々からは、子どもがいるからと躊躇せずに参加できるためありがたいと評判も上々でした。
ただ、有志でどれだけ若い世代の方々に興味を持ってもらえる企画を立案しても、可能な限りの配慮を尽くしたとしても、単にチラシを配っただけでは参加者は集まりませんと
仲野会長は語られました。チラシに記載された事柄だけでは趣旨や内容が伝わらないこともあり、全寺院に発送したとしても、チラシを手に取ってもらえないことも珍しくはありません。もちろん、広報のうえではチラシは重要な媒体ではありますが、参加を奨励するのであれば、やはり直接に話をすることが必要なのだそうです。
仲野会長や実行委員スタッフは、実施の2ヵ月程度前から本格的な開催準備を開始し、それと並行して前年度の参加者や顔見知りの坊守には、直接に電話をして参加を奨励してこられました。また、組内や近隣組の坊守に会った時にも積極的に参加の呼びかけをしてきたのだそうです。
すると、相手方の坊守は、「チラシを手に取ることができず、こういった事業が行われることを全く知りませんでした。呼びかけをいただいてよかったです。」と答えられ、参加いただくことができたといいます。
積極的に参加していただくためには、受け手の視点に立った内容を設えることが最も重要ではあります。ただし、参加を促すための広報や環境整備についても、受け手の状況に応答したものでなければなりません。
「坊守」自らの周囲にある出来事や状況を思い浮かべながら、どのような事業であれば参加しやすく楽しめるかを考えてきた結果として、事業の内容だけにとどまらず広報や環境整備に至るまでのあらゆる側面で「受益者視点」に立った配慮がなされたのです。
企画に関わった坊守の方々が、参加者と同じ視点や立場に立ち、同じような悩みや苦しみに対峙してきていることが、教化事業の運営においては最大の「強み」になったとも言えるのではないでしょうか。