自動販売機、あります!
高山別院の本堂正面、駐車場を挟んだ場所には、数台の自動販売機が並んでいます。何か飲もうかな、どんな飲み物があるかな、と、自販機を順に眺めていくと、一風変わった自販機が目に飛び込んできます。グレー地に金の、メタリックな相貌。これは、高山別院限定グッズが購入できる、「仏青自動販売機」なのです。
ここで販売されているのは、主に、
・高田松原の松で作った「松のしおり」
・飛騨御坊裏手の蓮池から採取、加工した「蓮の実ストラップ」
・ワンコインbook
等々。
この自動販売機を管理、運営しているのは、「飛騨仏教青年会」。高山別院を中心に、飛騨地域の若手会員がさまざまな活動を行っています。
飛騨仏青が9年前に購入したこの自販機は、現在、外観をリニューアルして、高山別院に出入りする多くの方々をお出迎えしています。
出会いのきっかけに
高山別院では、裏手の蓮池から採取した「蓮の実」で作った「念珠」や「ストラップ」など、さまざまな“グッズ”を販売しています。そのうちの一部が、本堂正面に設置された自販機で購入できるようになっています。気軽に立ち寄り、簡単に購入できることもあって、別院にお参りされるご門徒の方々だけでなく、大型バスでやってくるたくさんの観光客の目にもとまるようです。
「おっ、こんなものが…。」バスの待ち時間に、旅の思い出として買っていってもらうもよし、もしその足で本堂にお参りされるようであれば、なお嬉しいことです。
松のしおり、心のしおり
この自動販売機の「目玉」の一つが、岩手県高田松原の松を取り寄せ制作した、「松のしおり」です。
2011年3月11日に発生した、東日本大震災。かつて、7万本の黒松が全長2キロに渡って白浜の海岸を埋めていた高田松原ですが、津波により大きな被害を受けました。高山教区として、震災直後のボランティアや現地の子どもたちとの相互交流をするなかで、高田松原のその「被災した松」を譲り受けるというご縁があり、それがこの「しおり」作成の出発点となりました。
飛騨の地元木工メーカーに協力してもらい、木材を無駄なく使って製作された、この「松のしおり」は、縦9センチ横7センチの「蓮の花びら」型。中心にはそれぞれ、親鸞聖人の筆跡で書かれた「願」、「慈」、「道」の文字、あるいは地元寺院の前住職が描いた「観音さま」の絵が浮かびます。
終らない復興、消えない傷跡。それでも月日は流れ、私たちの記憶からその出来事はどんどん遠くなります。「忘れないで」。現地から聞こえてきたのは、「震災を、被災地を、私たちを、どうか忘れないでほしい」、との声だったそうです。
その声に触れて制作されたこの「しおり」は、ただのチャリティーグッズではありません。震災当時、私たちの誰もが感じた「悲しみ」や「愛おしみ」をとどめておく、“心のしおり”。それをもつ一人ひとりが、そこに震災の記憶をとどめておこうという記念のしおりなのです。
この「松のしおり」は、震災チャリティーグッズとして2014年から販売され、2015年7月、その売上金100万円が、「高田松原を守る会」と「陸前高田市」に寄付されました(facebook、2015年7月の記事参照)。今年、2017年5月には「高田松原再生記念植樹会」から案内をいただき、役員1名が植樹に参加してきました。
境内にたたずむ自販機での、グッズ販売。その試みには賛否があるでしょうし、それ自体はあくまで小さな出会い、小さなきっかけにすぎません。しかし、このささやかな触れ合いは、たしかに多くの人と人とをつないでいます。
(高山教区通信員 内記 洸)