― 京都教区の大谷大学卒業生が中心となって結成された「京都大谷クラブ」では、1956(昭和31)年から月1回、『すばる』という機関誌を発行し、2018(平成30)年9月号で第748号を数えます。京都市内外のご門徒にも届けられ、月忌参りなどで仏法を語り合うきっかけや、話題となるコラムを掲載。その『すばる』での連載のひとつである「真宗人物伝」を、京都大谷クラブのご協力のもと、読みものとして紹介していきます。近世から近代にかけて真宗の教えに生きた様々な僧侶や門徒などを紹介する「人物伝」を、ぜひご覧ください!

真宗人物伝

〈2〉 香樹院徳龍師
(『すばる』723号、2016年8月号)

【すばる】香樹院徳龍師002似影2

「香樹院徳龍師似影」(無爲信寺所蔵)
※写真提供:同朋大学仏教文化研究所

 
1、香樹院徳龍師とその著述書

近世後期における代表的な学寮講者に、香樹院徳龍(こうじゅいんとくりゅう)師(1772~1858)がおります。東本願寺教団における一般僧侶の教育機関である学寮の第10代講師に数えられる徳龍師は、第5代講師にあたる香月院深励(こうがついんじんれい)師(1749~1817,「真宗人物伝〈17〉香月院深励師」)の弟子で、越後国蒲原郡水原(新潟県阿賀野市〈旧・北蒲原郡水原町〉下条町)の無爲信寺(むいしんじ)(三条教区第23組)で生まれ、のち同寺の住職となった僧侶です。文政3年(1820)に、学寮の職である擬講ぎこう、文政6年(1823)に嗣講しこう、弘化4年(1847)には講師に就任しています。

 

東本願寺は近世に4度の火災にあい、その度に再建されました。2度目である文政度再建の際、徳龍師をはじめとする学僧による全国的な教化体制が初めて確立されました。東本願寺の再建事業と連動して、徳龍師ら学寮講者は、地域を分担して教化活動を行いました。その際の演説である〈語り〉は、聴衆の僧侶などによって筆録されて、「講録」と称される書物としてまとめられました。それは書写されることで、さらに流布していきました。このような写本が諸国の寺院や道場に所蔵され、一般僧侶や門徒が仏教を学ぶ際に活用されました。

様々な著述書を残した徳龍師ですが、その代表的なものに『三罪録(さんざいろく)』があります。
これは、僧侶が

虚受信施(こじゅしんせ)(不当に、あるいは実が伴わないにも関わらず、施し〈懇志〉を受けること)、
不浄説法(ふじょうせっぽう)(清浄でない心持ちで仏法を説く。あるいは説く内容が仏法に背いていること)、
偸三宝物(ちゅうさんぽうもつ)(仏・法・僧の三宝をなおざりにすること)

の三罪を重ねやすいことをいさめた内容です。

 

『三罪録』は、このような姿勢の僧侶をいましめることを主眼としています。徳龍師は同書を通して僧侶一般に、現状を悔い改善する姿勢を求めていきました。

 
2、近代における継承

徳龍師は、明治期に刊行された妙好人伝に掲載されることで、その業績がさらに広く知られることとなりました。真宗の篤信者である「妙好人」の伝記をまとめた妙好人伝の一つで、明治期に刊行されたものに、平松理英(真宗大谷派僧侶、1855~1916)が編纂した『教海譚美(きょうかいびたん)』全2編があります。第1編が明治19年(1886)、第2編が明治24年(1891)に刊行されています。

 

「香樹院徳龍」の項目が掲載されているのは第2編です。そこで徳龍師は「一生不犯」と紹介されています。つまり徳龍師は、一生妻を持つことのなかった、学問的にも倫理的にも優れた理想的学僧である妙好人として描かれています。徳龍師は、学寮で学ぶ僧侶らの素行がよろしくないことを嘆き、自らは端正な言行に努める中で、『三罪録』などを執筆したのでした。

 

このような徳龍師の伝記を紹介した後、編者の平松は、僧侶たる者は毎月1回『三罪録』を読み、寺族は同じく徳龍が著した『坊守教誡(ぼうもりきょうかい)』を読誦するように、と勧めています。なお、この『三罪録』は、明治17年(1884)に2巻本として刊行されています。

 

その他にも、徳龍師の法話録が近代に数多く刊行されています。文政度再建に際し、京都の総会所や出羽国の専稱寺(山形教区第1組、山形市)にて講述された法話を掲載した『香樹院徳龍講師法話』(西村護法舘、1906年)がありますが、その末尾には、「香樹院大講師著述書目」として、18部にわたる法話録の書名が掲載されています。

 

近世後期の学寮講者である徳龍師の著述書は、近代に至っても、僧侶や門徒が真宗生活を実践していくための参考として活用されていったのではないでしょうか。

 
■参考文献

松金直美「学寮講者にみる護法思想ー香樹院徳龍を事例としてー」(『真宗教学研究』第38号、真宗教学学会、2017年)

松金直美「近代における「伝統宗学」史観」(教学研究所編『教化研究』第161号、真宗大谷派宗務所、2017年)

 

■執筆者

松金直美(まつかね なおみ)