札幌からおよそ450キロ、オホーツク海と太平洋に面した根室半島にあり、離島を除いた日本最東端に位置する北海道根室市。日本で一番朝日が早く昇るこの街に、根室別院はあります。今回は、根室別院で取り組まれていることについて、お話をうかがいました。
お寺で子ども食堂が始まった!
根室別院では、2019年の6月から「じぃ~んこども食堂」(隔月開催)が始まりました。
100食を用意して、子どもは100円、大人は300円で提供。子どもだけではなく、地域のお年寄りの人にも来てほしいと、参加を呼びかけています。
「じぃ~んこども食堂」は実行委員会が主催しており、根室別院は会場や光熱費等の運営をサポートしながら事務局としても支えています。
実行委員会のメンバーには、ご門徒さんが約半数、他には地域の方々や活動に関心がある人、企業や団体から支援する人たちが集合。近隣の市町村で子ども食堂が活動する様子を見て、「根室にも子ども食堂を作りたい、けれども会場や予算がネックとなり、やりたくてもやれなかった」。
そんな思いのある人たちに、別院が場を提供することになりました。
じぃ~ん こども食堂開催の様子(動画)はこちら(Facebookページへ移動します)
子ども食堂を立ち上げたいと、スタッフを募ったところ、たくさんの人たちが「やりたい」と言って参加してくれたそうです。お寺は厨房も広いし、食器もある。会場も広いので、食事以外にもいろいろできる。こうして「じぃ~んこども食堂」が立ち上がりました。
子ども食堂の日は、根室市の議員さんたちによる遊びコーナーをはじめ、根室警察署による手作り紙芝居の披露や、パトカーの乗車体験も同時開催することがあるそうです。地域の人に愛される場になっています。
根室別院が取り組んできた日の出カフェの幕。「会場がお寺であることを大切にしたいという思いから、ロゴマークには根室を象徴する朝日と、お寺の屋根が入っているんです」と、スタッフの田家尚美さんは話します。
始まった地域での取り組み
根室別院では2015年、「根室ジーンプロジェクト みんなの生き方ラボ」というワークショップが始まりました。地域住民とともに、お寺という場で人生100年時代の生き方を話し合い、実践するというコンセプトで、2017年からは活動を実践する場としての寺カフェ「日の出カフェ」が開かれてきました。
年間を通じて、坊主バーやお寺バザー、流しそうめん、寺子屋、報恩講の仏華立てなど、様々な活動を行う日の出カフェの運営メンバーの中心は、ご門徒さんや地域の方々。「運営に携わるメンバーが中心となって動かしていくことを大切にしている」とお聞きしました。
「日の出カフェ」の活動
寺子屋では、子どもの学習支援を行っています。「勉強がしたくても、塾に行けない子もいます。教員をしていた経験を生かして、そういった子たちを助ける活動をしたかった」と、運営を担当する千口昇さんは語ります。
坊主バーは、普段たがいに話せないことを語り合う場。「お坊さんが着ている服について知りたい」というアンケートの声をもとに、実際に列座さんが着ている姿をファッションショーのように見ながら、装束の解説を小町保雅輪番が行った会は、興味深いと好評だったようです。
学習支援の様子
こうした活動の経費は、バザーの収益金を活用しています。バザーを担当するメンバーが不用品を集めて、そのまま品物として出せるか整理したり、値段をつけたりするそうですが、いつも開始30分前には100人くらいが集まるほどの盛況ぶりです。
日の出カフェなどの活動は、なるべく義務感でやらないということを大事に、やらされている感があると楽しくないので、みんなが主体的に楽しく関われるように気をつけているそうです。
「日の出カフェ」の活動を通じて、地域の人たちとの関わりをもつ中で、別院ではたらく方々の意識にも変化が生まれたといいます。
*活動は「日の出カフェ」のFacebookページで報告されていますので、ぜひご覧ください。
地域の人がお寺を使っても良い
ある時、学校を拠点として活動していた地域の卓球サークルが、廃校により活動場所を失い、たまたま根室別院に相談にきたところ、別院では役員さん方と協議の上で会場を貸し出すことにしました。別院には卓球台を置いて活動できるスペースがあり、現在はそこで定期的に活動しています。
別院では他にも日本舞踊の会や、つまみ細工をつくるかんざしの会が集っています。使用にはルールがありますが、地域の人がお寺を使っても良いのだと認識して、困った時にお寺を頼ってくれる。そのような信頼関係が、プロジェクトをきっかけに生まれたのです。
別院も面白いことをやるんだね
別院の活動について、別院の役員さんやご門徒さんからの反応は好評です。お参りの時にチラシを持っていったら、「別院も面白いことをやるんだね」と言われたと、列座の辻内さんは語ってくれました。
当初から参加する門徒の濵屋さんは、「まず別院に足を運んでいただきたい。お寺に来ていただくのが第一歩。どこの街にも気持ちをもった人はいる。お寺さんがその気になるかどうかが肝心。まずはお寺さんに気持ちのスタートを切ってほしい」と語ってくれました。
根室別院の皆さん、取材時の語らい
「じぃーんこども食堂」に食材を無償提供してくださったり、人手を出してくださる団体や企業が増えていることに、「根室という地域を思う心と、地域の中にある別院がどうあるべきかということがリンクして、今の状況になっていると感じる」と別院の皆さん。
「寺の中だけで決めるのではなく、役員さんも揃って決断することが大事。寺だけでやるとバックアップがないからむずかしい」。「真宗寺院の根幹にあるのは、親鸞聖人の教えを聞く場所。ただ、そこに足を運んでいただける活動も、お寺側としては試行していくべきじゃないか」。小町輪番の力強い言葉は、この数年にわたる別院の地域での歩みを感じさせるものでした。
(北海道教区通信員・秋山 智)
※「日の出カフェ」等の活動は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の状況により休止している場合があります。詳しくは、根室別院(TEL:0153-22-2115)までお問い合わせください(2020年7月現在)。