人との出会い
(名畑 直日児 教学研究所研究員)

毎月、滋賀県で開かれる、ある聞法会に参加している。午前中は、かつてその聞法会に来られていた先生の、優しくも厳しい言葉、笑い声も混じる法話を録音したテープを聴く。そしてそれぞれが感じたことを出しあい内容を確認する。
 
昼食時は、各自持参する弁当を食べながら、身の回りの出来事から世界情勢にいたるまで、さまざまな話となり、時には季節の料理の作り方にも話がおよぶこともある。午後は、真宗の御聖教を学ぶ時間として、『尊号真像銘文』を読んでいる。また参加者の多くが、本誌『ともしび』を購読されているので、その内容で疑問に思ったこと、感じたことを話し合う。
 
一つの場所に集まって、直接、お互いの顔を見ながら、話をすることがとても貴重な時間となる。気心のしれた関係もあり、比較的よく話をされる方が多いので、会話が途切れることはない。そのような関係であっても、ひと月の間に、一人ひとりの身に起こる出来事から生まれるさまざまな疑問の声には、初めて聞くような響きがある。
 
この聞法会に参加するようになって七年が経とうとしている。通いはじめた頃、座談で話されていたなかで、今でも印象深く残っている疑問は、「「義なきをもって義とす」をどのように了解したらいいか」である。これは、親鸞聖人の仮名聖教をはじめ、『歎異抄』にも示される言葉である。
 
ここには二つの「義」が示されており、それぞれどのような意味をもっているのかについてはさまざまな了解が伝わっている。それらの了解を確認しつつ、このテーマを通して、念仏に出会いたいという姿勢が、この聞法会に溢れていた。
 
『尊号真像銘文』には、次のようにある。
 

他力には義のなきをもって義とすと、本師聖人のおおせごとなり。義というは、行者のおのおののはからうこころなり。このゆえに、おのおののはからうこころをもったるほどをば自力というなり。よくよくこの自力のようをこころうべしとなり。(聖典五三二~五三三頁)

 
ここにある「本師聖人」とは法然上人を指しており、親鸞聖人は法然上人の「おおせごと」として示している。つまり法然上人との出会いにおいて、親鸞聖人が見出された他力が、この「義のなきをもって義とす」として示されていると思われる。
 
自分自身で「行者のおのおののはからうこころ」「自力」を課題とすることは難しい。しかし親鸞聖人は法然上人との出会いによってはじめて、これらが課題となったということではないだろうか。そしてこの出会いが大きな縁となり、親鸞聖人は本願他力との出会いを確かめている。
 
聞法会という場を通して、人と人が出会い、仏法が確かめられていく。御聖教の言葉を聞きながら、念仏に出会いたいと歩む人の姿から、自分自身の歩みが見直されることを思う。
 
(『ともしび』2021年12月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)
 

お問い合わせ先

〒600-8164 京都市下京区諏訪町通六条下る上柳町199 真宗大谷派教学研究所 TEL 075-371-8750 FAX 075-371-6171