療養所を訪ねて⑪沖縄愛楽園

「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第6連絡会委員 徳元 尚太

 10万人当たりの新型コロナウイルス感染者の人数が全国で最も多い期間が続いていた沖縄県では、2021年5月21日に緊急事態宣言が発出、その後も宣言が5度も延長され、行動の制限は9月末にようやく解除されました。

 その間、沖縄本島北部にある沖縄愛楽園では、入所者との面会が制限され、交流館も一時閉館しており、そのため療養所を訪れることはできませんでした。しかし、このような状況の中で大事な出来事がありました。

 緊急事態宣言下でありましたが、愛楽園入居者の葬儀を勤めさせていただくご縁をいただきました。葬儀の合間に、ご遺族の方のお話を聞く機会があり、「故人は私たちに良くしてくれた。私だけではなく娘、息子たちにも、孫までも…」と涙しながら話されました。三密を避ける時期でしたが、親族40余名もの方々に見送られ、荼毘に付され葬儀の後、沖縄独特の門中墓(ムンチューバカ)という大きなお墓へとお骨は納められました。かつて、ハンセン病回復者は門中墓へ納骨が許されないという、死んだ後も差別が続く例もあったと聞きます。多くの方が療養所での葬儀を行う中、今回のご葬儀では園外で葬儀が勤められ、無事納骨され安堵しました。このようにハンセン病に理解ある家族もあれば、そうでない場合もあるかもしれません。

 そしてもう一つの出来事として、今年の3月8日に、沖縄愛楽園自治会長を務めた金城雅春さん(享年67歳)が急逝されました。葬儀などは親族や入所者、職員などで執り行われ、コロナ感染拡大予防のため外部からの出席者は受け付けられませんでした。そのため、雅春さんと関わりのあったたくさんの方々は、葬儀の場で手を合わせることができませんでした。

 しかし、雅春さんとの関わり合いが深い方々の要望で、49日にあたる4月25日、「ハンセン病問題ネットワーク沖縄」の主催で、東本願寺沖縄別院を主配信会場に「金城雅春さんを偲ぶ会」が開催されました。沖縄別院に来場された方は10名ほどでしたが、60余名がリモートで参加し、テレビや新聞も取材する中、開催されました。

 会の中で行われたリレートークでは、「急逝を受け入れることができず、自身の気持ちを整理できず、この会への参加も躊躇した」「この偲ぶ会を通してあらためて雅春さんが亡くなったことを実感した」と涙を流しながら語る方が多くありました。

 ハンセン病の差別や偏見と闘い、その事実を社会に広められた雅春さんの願いや思いは、遺された方々へと引き継がれ、その築き上げたもの、大切にしてきたものを守ってゆく必要があるのだと、強く感じさせられました。

 金城雅春さんという大きな柱を失いましたが、その雅春さんが奔走し伝えた人間回復への思いや願いは、確実に多くの人に引き継がれています。その人間回復へと進む道に、私も共に歩ませていただきます。

療養所を訪ねて⑫宮古南静園

「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第6連絡会チーフ 長谷 暢

 コロナ感染が拡大して以降、沖縄県でも離島である宮古島へは、渡航自粛が求められ、病院施設である宮古南静園への訪問はさらに厳しい状況でした。そこで今回、南静園と長く関わり続けてこられ、現在、沖縄県の政策参与※の要職におられる亀浜玲子さんに現状をお伺いしました。

※政策参与…県の重要課題解決のために調査を行い、知事に進言する特別職

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南静園の現況

 今年度に入り五十人を切る入所者数で推移しています。全国の療養所の中でも、人数の少ない療養所の一つです。ただここの特徴は、再入園する人が一定程度います。でもその多くの方々は終末期に再入園されます。県立病院などを退院される際、家族が介護できない場合、地域の福祉・介護施設に入るよりはということで南静園に来られます。ここで最期を迎えられるというところまで相談して来られるケースが多いように思います。

 私たちは入園者数が減少しその平均年齢が九十歳近くで推移する現状の中で、入園者の尊厳を守るために、様々な支援と活動を行っています。

■自治会の活動を支援

 その一つが「自治会をいかに存続させるか」ということです。現在の南静園入所者自治会は、会長を担える方はなく、入所者の代表として相談員という立場の方が一人おられます。実際は、その相談員から委嘱を受けた南静園の退所者である知念正勝さん(宮古退所者の会代表・沖縄回復者の会共同代表)が「連絡員代行」として、自治会を代表し運営されています。またその補佐的な役割として、私ともう一人が同じく委嘱を受けて、自治会の活動を支援しています。

園内の人権擁護委員会

 もう一つは、入所者の人権を守るためのチェック機関となっている、宮古南静園の「人権擁護委員会」です。委員長はハンセン病問題に詳しい森川恭剛琉球大学教授が務め、私や弁護士など園外の人々と、園長をはじめ園の事務長などの職員が委員を務めます。委員会の役割は、入園者が社会で暮らすのと遜色ない生活ができているのか、ちゃんと担保できているのかということをチェックすることです。

 そこでは一つ一つ細かなことまで確認します。三ヵ月に一度開催されますが、その間の看取りの件数、身体拘束を何回行ったか、どういう状況で行ったのかなどを聞きます。告別式は家族に連絡したか、家族が来たか、最後までその入園者の意思に沿って手厚く見送られたのか。コロナの状況下、面会はどういう条件でどういう場所ならば可能かなど、人権に関わることを毎回確認し、できる限り入園者の尊厳が守られるよう努めています。

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 これまで南静園でも「療養所の将来構想」ということが計画されてきましたが、今、その時を迎えているのかもしれません。「入園者の最後の一人まで守るために」ということをいかに実現するのか。全国のハンセン病療養所で入所者自治会が高齢化のため運営できなくなっていく時、宮古南静園を一つのモデルにとの思いで現状をお話しされましたが、その時、私たちはなにをするのか、大きな課題をいただきました。

真宗大谷派宗務所発行『真宗』2021年12月号より