真宗大谷派(東本願寺)では、宗祖親鸞聖人御誕生八百五十年・立教開宗八百年慶讃事業の5つの重点教化施策の一つとして、「真宗の仏事の回復」を進めています。これは朝夕のお勤めや報恩講をはじめ、通夜・葬儀・法事などのあらゆる仏事が、御本尊を中心とした仏法聴聞の場として回復していくための取り組みです。ここでは各教区の動きを紹介します。
〈僧侶対象学習会 真宗の御本尊とは?〉
金沢教区において、「お念仏が伝わりづらくなった」と言われて久しい昨今において、改めて僧侶自身がご本尊に対する受けとめを確認し、真宗の仏事の回復を一人ひとりの課題としていくことを目的として、「真宗の本尊―真宗の仏事に関する学習会―」を2回に分けて開催しました。
〈真宗の本尊の歴史的展開・親鸞における名号本尊の意義〉
第1回目は、2021年4月23日、鶴見晃氏(同朋大学教授)を招聘し、御本尊や真宗の仏事について教学的・歴史的な観点を中心にお話しをいただきました。
講義の冒頭に、本尊とは「礼拝の対象として尊崇する仏・菩薩・曼荼羅などをいう」(岩波仏教辞典)ということを確認したうえで、真宗において「名号」を本尊とする意義はどういうことかを歴史的背景からひも解きながら、丁寧に講義が展開されました。講義の後半には、親鸞聖人における名号本尊の意義について、関東門弟内で起こった念仏の異議に対する親鸞聖人の対応を軸に講義が進められました。親鸞聖人が名号本尊を創作した意義としては、①自己の「愚者」であることの気づき、②他者を選り分ける眼を捨てて共なる他者を見出すためとし、現代において本尊を頂くことの意味を、他者との関係性という視点を入れて考えていく必要があると結ばれました。
〈現場における実践的な観点〉
第2回目は、2021年9月3日、教区内住職の井上裕氏(第7組光德寺)を講師として、現場における実践的な観点から学びを深めることを目的に開催しました。
講師からは、「真宗の仏事の回復という言葉を使わなくてはいけないことが残念です」とのお言葉がありました。その「回復」とは、以前にあったものが何を失っており何が残っているのか。その中で何を「回復」しようとしているのかを私たち一人ひとりが考える必要があります。また、仏事を「伝える」と「伝わる」、「つとめる」と「つとまった」、「前姿」と「後ろ姿」、「仏壇」と「お内仏」という言葉ひとつの使い方が変わってきていることが問われました。仏事の形骸化・簡素化といわれますが、具体的には①月忌参りの減少、②寺参りの減少、③家族葬の増加に伴う僧侶の葬儀参加率の減少、④墓じまいなどがあげられます。
〈これからの歩み〉
仏事の回復というのは、そのような場を取り戻すことも当然ですが、本来目指すことは念仏生活を実践し、次世代まで念仏が相続されるような聴聞の場が開かれ続けていくことでありましょう。仏事儀礼が世俗化して宗教性を喪失している現状を打破するには、私たち僧侶が、法義相続されていくことを本当に願っているのかという課題を突き付けられたことです。このような本尊に対する受け止めの確認をとおして、日頃のご門徒との場を大切な仏事の場としていただき直していきたいものです。
(金沢教務所)