今、国内で7人に1人が貧困の問題に直面している中、子ども食堂が注目を集めています。2022年現在、全国には約6000箇所もの子ども食堂が存在しているそうです。今回、子ども食堂「かわうそ堂」を運営する真楽寺(岡崎教区第33組:静岡県沼津市)の勧山法紹氏にお話を伺いました。
▶︎かわうそ堂を始めたきっかけ
以前から真楽寺には時々お寺に食べ物を求めて突然来られる方がおり、炊飯器に残ったご飯でおにぎりを作って渡すことがあったそうです。
そんな時フードバンクという制度があることを知ります。坊守さんが沼津市の仏教婦人会長に在任中、静岡県仏教婦人会の会議があり、そこで「フードバンクふじのくに」の方のスピーチを聞いたことがきっかけでした。
フードバンクとはアメリカ発祥の生活困窮者のための支援制度。商品のパッケージ破損、印字ミスなどの理由で流通させることのできない食糧、また有志で寄付してもらった食糧を集め、食べ物に困っている人に分け与える制度です。
このことをきっかけに坊守さんたちが沼津市の仏教婦人会に声をかけ、年2回のお寺フードドライブ※が始まりました。(※食べ物を集めてフードバンク窓口まで運ぶこと)その後、沼津の105か寺が宗派を超えてこの活動に参加しました。実施主体は仏教婦人会ですが、食品を集めたり窓口がある静岡市まで運んだりと実働を担うのは沼津青年仏教会の若手僧侶。法紹氏も活動に尽力しました。
しかしある問題がありました。県内から食糧が大量に集まるフードバンクでは、その食糧の仕分けにかかる労力も相当なものになり、仕分けをしている間に食糧が賞味期限切れになり廃棄されることが少なくないとのこと。窓口の職員から「それだけの食糧が集まるのであれば、地元で配った方が良いのでは」と提言を受け、その後、地元沼津の困窮者相談窓口であった自立支援センターへ食糧を運ぶこととなります。当初は順調に食糧が困窮者に行き届いていましたが、ある時、自立支援センターの業務委託先がNPOから民間会社に変わって審査が厳しくなったそうです。
そこで地元のNPO法人「青少年就労支援ネットワーク静岡」(サポぬま)の人たちが代わりに食糧を集めて配る活動を始め、その一環として、子どもの居場所支援を兼ねた子ども食堂が開催されることになりました。しかし、公共施設を使うにあたり消防法による人数制限、スタッフの人数確保、毎回の荷物の搬入の手間など問題が山積みでした。
ある時、法紹氏が貧困支援のシンポジウムに参加した際サポぬまの人と出会います。それが縁で子ども食堂を見学することになり、現状を知りました。サポぬまの献身的な活動に感銘を受けた法紹氏はたまらず「それならうちのお寺でやりませんか」と提案し、かわうそ堂が始まりました。
家族からは当初不安の声もあったそうです。それでも活動に踏み切った理由を尋ねると「教えに背中を押してもらいました。これが自分の縁なのだと思ったし声をあげずにいられなかった」と話してくれました。
▶︎かわうそ堂の活動
開催は毎月1回。対象は一人親家庭の保護者と子どもたちが主で、スタッフ分含め毎回30~40人分の食事を作ります。スタッフには、サポぬまの方だけでなく、沼津市ひとり親会のメンバー、真楽寺ご門徒の女性方、ボランティアの高校生、地域のお年寄りなどさまざまな方がおり、三々五々加わり一緒に準備をします。
午後3時ごろから調理開始。5時に短いお夕事を勤め、6時にいただきます。ご門徒さんが今朝掘ったばかりの大根や里芋を持ってきて味噌汁にしていただくこともあるそう。
「目の前に生産者、調理者がいると”いただきます”が自然に感じられるんです」と法紹氏。
食後は子どもたちが走り回るのを眺めつつ、お母さん同士が談笑をしながら帰っていかれます。参加者も会を重ねるうちに徐々に打ち解け、調理の女性に料理の仕方を聞いたり、自ら片付けや盛り付けを手伝ってくれたりするようになるとのこと。
また、調理のベテランお母さんも子どもたちに声をかけるなど、自然と互いに心をかけ、言葉をかけあう繋がりが生まれるそうです。お手伝いのある女性はご主人を亡くし家に帰れば一人。だけどここではみんなで料理を作り一緒に食べておしゃべりを楽しむことができるのでやりがいをもって参加している、といいます。新型コロナの流行後は、状況によって弁当の配布と本堂での会食を切り替えながら実施しているそうです。
▶︎子ども食堂の広がりについて
「”困窮するのは自己責任”という私たちの考え方が、子ども食堂が繁盛するような社会にしてしまっていると思います。多くの人を不安や孤独に追い込む私たち自身が、不安や孤独を見ないことにして今の社会を形成しているのではないでしょうか」。法紹氏は、子ども食堂が繁盛する世の中には疑問を持つべきと警鐘を鳴らします。
一方、法紹氏は趣味が料理ということもあり、活動には大きなやりがいをもって取り組んでおられるとのことです。「1月90食のうちのたった1食、もしかしたら砂漠に水を撒くような小さなことかもしれません。だけど私は料理を作ることが大好きだから苦にはならないんです」。かわうそ堂の特徴は”ゆるさ”だとも話されました。多少のテキトーさを互いに許し合い、皆、和気あいあいと準備に取り組む姿が印象的でした。
▶︎取材を通して
食事を提供することもそうですが、”身近にこんなに困っている人がいる”ということを子ども食堂を介して地域で共有できることが大切なのだと感じました。
助けを求めることは恥ずかしいことだと感じ、なかなか声をあげることができないという方もおられると思います。子ども食堂をきっかけにその声を拾うことができ、そこから生まれた関係性に救われる方は多いのではないでしょうか。取材の中でここに書けないような辛い境遇に置かれている子どもたちの話も聞かせていただきました。
その現状を聞いて、この社会の暗い部分とどう関わっていくことができるのか。自身の生活のあり方を問われた1日でした。
(岡崎教区通信員 別符浩瑛)