伝道掲示板


昔はものを

思わざりけり

(権中納言敦忠)



掲示板と住職の泉さん

熊本県南阿蘇村の日本名水百選で知られる白川水源の近くに圓林寺はあります。元々は、白河水源から少し南西にある竹崎水源の付近に1662年に建立されましたが、水害を理由に、220年前に現在の場所へ移築。建立当初の360年前に使用された木材を今もそのまま大事に残されています。


掲示板については、元々は黒板にガラスの覆いがある形で、筆で御住職が書かれた紙を中に貼っていたのですが、2016年に起きた熊本地震でガラスが割れてしまったため、黒板にチョークでそのまま書くスタイルに変えられました。雨風が吹く度にすぐに文字が消えてしまうとのことですが、「天候が書きかえ時期を不定期に決めていく面白みがある」とのことです。


掲示板自体も設置から50年以上経ち、老朽化しているのですが、ご門徒が都度修繕してくださることにより、掲示板そのものに沢山の願いがかけられていることから、住職は「有り難くて新調できないんです」と語ってくださいました。何処でも過疎化が進む状況ではありますが、だからこそ老朽化している掲示板を逆に「皆で守らんといかん」という強い思いと、掲示板を気にかける地域の方々が沢山いることを感じました。


掲示内容は、住職が出遇われた法語をそのまま書くというよりは、解りやすく嚙み砕いた教えの言葉や、真宗の教えを現代の言葉にして伝えてくださっている言葉、浄土真宗以外の言葉も取り入れるようにしているそうです。

圓林寺の歴史を伝える石碑


掲示されていた法語の「昔はものを思わざりけり」は、本来は恋愛をテーマにした和歌の一部ですが、ご門徒が「大切なことに出会ったならば、いままで自分は何も分かっていなかったことが知らされた」と感じ、「”昔はものを思わざりけり”という言葉が響いてきた」とお話しされたことから掲示板の言葉に採用されたそうです。  


最後に住職が「掲示板はお寺の顔です。圓林寺の掲示板は、今の顔ではなく昔の顔なんですけども愛着があり、黒板とチョークの愛嬌もあるんですよ」と、微笑んで語ってくださいました。だからこそどこか私たちに懐かしさや、何か忘れかけているものを感じさせてくれるのだと思います。掲示板を通して一人ひとりが「今から昔・昔から今」を考える時間を与え続けてくださる場所なんだということを、取材を通して強く感じました。


前住職から残された掲示板の言葉


(九州教区通信員・竹﨑桂一)

『真宗』2022年10月号「お寺の掲示板」より


ご紹介したお寺:九州教区熊本東組圓林寺(住職 泉 翔士())※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。