「四苦八苦」ということ
著者:廣瀬 惺(大垣教区妙輪寺前住職・元同朋大学教授)
四苦八苦といわれる苦というのは、状況的な対応だけでは解決がつかない問題を、人間は抱えているということです。四苦は生老病死です。そして八苦は、さらに「愛別離苦」、愛する者との別れ。「怨憎会苦」は、嫌な人とも一緒に生きていかざるをえない苦しみ。「五蘊盛苦」、五蘊というのは私たちを構成しております心身の五つの要素です。それが盛んであることの苦しみ、これは心身を持て余す苦として私は受け止めています。そして「求不得苦」、求めたものが得られない苦しみ。これらはどれだけ状況がととのえられたとしても決してなくならない問題、解決がつかない問題でしょう。そういう問題を抱えて生きていることを教えているのが仏教です。
そういうようなことで、人間は状況的な救済では満たされない要求や問題を抱えて生きている。そういう人間が、「これに依って」と言える真実を見出してきた。そしてさらに、その真実によって開かれる生き方はどういう生き方であるのか、それを明らかにしてきたのが宗教だと、こう申し上げていいのではないでしょうか。
お念仏の御法では、そのような真実が本願念仏という言葉で表されているわけです。状況的な救いを求めていく在り方においては満たされない、私たちが抱えている要求が応えられていく真実、あるいは、状況的な救済だけでは解決がつかない問題が思いがけないかたちで応えられていく真実、そういうものが見出されてきた。これは奇跡的とも言えることだと言ってもいいのではないでしょうか。そのことが、例えば『大無量寿経』では、そういう真実が人間に受け止められるまでに「五劫」という永い時間がかかったと説かれているわけでしょう。ですからそれは、人間を立場にして言いますなら、永い間人々が要求や問題を抱えて生きてきた、そのいとなみが見出してきた真実であると申してもいいわけでしょう。
『阿弥陀経に学ぶ』(東本願寺出版)より
東本願寺出版発行『真宗の生活』(2019年版⑥)より
『真宗の生活』は親鸞聖人の教えにふれ、聞法の場などで語り合いの手がかりとなることを願って毎年東本願寺出版より発行されている冊子です。本文は『真宗の生活』(2019年版)をそのまま記載しています。
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