住職の西寺真也さん(右)
坊守の西寺浄帆さん(左)


2023年10月、三重県伊勢市にある本覺寺(南勢1組)を訪ねました。本覺寺では本堂を新しくした際に、お寺で葬儀ができるようにされたとのことです。今回はお寺で執行する葬儀について取材させていただきました。

本堂での葬儀


2021年12月に落慶法要をした本堂は、須弥壇が無い蓮如上人の頃の道場造り(押し板形式の内陣)。法要の際、住職さんをはじめ客僧さん(法中の僧侶)は外陣に横並びとなり、僧侶もご門徒さんも常に平座でお勤めをする形式になっています。

もともと、葬儀は、自宅や、時にはお寺で行っていましたが、徐々にホール葬が増えていきました。そのような中、ご門徒から「お寺があるのだからお寺で葬儀をしたい」との声もあり、本堂を新しくした際に、葬儀がしやすいようにされました。今では、お寺での葬儀も増えているとのことです。

本覺寺では本堂に向かって左側、庫裏とは反対側に、ご遺族の方の控室や、ご遺体を安置する部屋があり、奥にはお風呂が備えてあります。キッチンとバリアフリーのトイレもあり、家族の方が夜遅くまで一緒にいられるようになっています。

控室入口 左手にあるのは車椅子用昇降機
控室
車椅子用昇降機
バリアフリーのトイレ

ご門徒さんとお寺での葬儀


お寺で葬儀を執行したご門徒さんは、本当に喜ばれているとのことです。中には、その人が通って来たお寺でその人の最期であるお葬式をしてもらえることがありがたいとの声もあったとのこと。町内の方が、お寺での葬儀を聞きつけて、来てくれたこともあったそうです。

本堂の襖絵

また、家族葬よりも少し広めの、親族も集まる葬儀もできて、丁度よいとも言って頂けたそうです。どの様な葬儀にするかは、ご家族の意向を聞いて行われています。

籠盛や火葬場等は、葬儀社や専門の方に任せていますが、長机や椅子等の準備や片付けは、ご家族や親族の方々がして下さることとなっており、皆さん面倒だということはなく協力してくださるとのことでした。

誰もが参加できるように


本堂の入口近くには長机が置かれていてお茶等が並べてあり、飲物はセルフサービス方式となっています。以前は、法要や葬儀の際、お茶の準備に携わる方が、肝心の儀式に参加できないことがありました。そこで、飲物を各自が用意することで、誰もが本堂でお参りできるようになっていました。

本堂の一角には、小さい子どもが遊べる場所が設けられ、ぐずった子どもが過ごせるようになっています。

苦労していることと課題


苦労していることをお尋ねしたところ、家族の方のプライバシーへの配慮を挙げられました。

ご遺族の中には、静かに見送りたい方もおられます。お寺で葬儀を執行すると、どうしても色々な方々の知る所となることから、本堂での葬儀を断念された方もあるそうです。

葬儀の準備のマニュアル化、というお話もありました。お寺での葬儀となると、どうしても坊守さんが掃除や接待についての責任を背負い込んでしまいます。誰か一人に準備を任せるのではなくマニュアル化して、誰もが準備に参画できるようにしていかないといけない、と話されました。

お寺での葬儀にあたって必要なものをお伺いしたところ、ご家族で休める場所さえあればお寺を使っていただきやすい、とのことでした。以前の本堂とは異なり、家庭用サイズのエアコンを3台設置したことも、お寺での葬儀の増加に繋がったそうです。

やぎさん文庫


本堂の一角には本棚があり、毎週水曜日の午後3時から5時まで、やぎさん文庫という子どものための図書館が開かれます。名前の由来は、童謡の「やぎさんゆうびん」(まどみちお作)からです。

お寺の近所には図書館のような本を借りられる場所がありませんが、ここでは、読書や、宿題をしたり、遊んだりできるということで好評をいただいているとのことです。

取材を終えて


住職さんの「どのお寺でもできると思うんです」という言葉が心に残りました。

本堂での支度を、誰か一人の負担にならないよう一緒に行う等、工夫をすることで、建て替えをした寺院だけではなく、「どのお寺でもできる」ようになるのではないかと感じました。

真宗の寺院は門徒さんが集まる「道場」です。だからこそ、有縁の方が集まる葬儀も、力を合わせることで、できるのではないかなと思いました。

(三重教区通信員 山田潤貴)