東京教区、特に首都圏には進学や就職、転勤、結婚などによって全国各地から人が集まっていることもあり、故郷を離れて生活している真宗門徒、いわゆる「離郷門徒」やその子どもたちが大勢いらっしゃいます。また、首都圏に住んでいて真宗と何らかのご縁があり、その教えを学びたいと思っている方も大勢いらっしゃいます。真宗の教えを求める人々が、真宗に縁ある方々とともに仏法を聴く場を開こうと、首都圏各地で聞法会などを開催しているのが、「東京真宗同朋の会」です。
【東京真宗同朋の会】
東京真宗同朋の会について
東京真宗同朋の会ホームページ
真宗会館公式サイト内の聞法会紹介ページ
2022年7月より、千葉県松戸市にあるイタリアレストラン「りすとらんて轍」を会場とした聞法会「わだちでブッダ」が始まりました。
今回、「わだちでブッダ」を始めたきっかけやその願いについて、会の世話役で、会場の「りすとらんて轍」のオーナーである岩田雅恵さんと、イベントアドバイザ-のユウコエメラルドさんにお話を伺いました。
―「わだちでブッダ」を始められたきっかけを教えてください。
岩田さん 私の家は代々、愛知県一宮市にある光専寺というお寺さんにお世話になっています。前住職の加藤智見氏は宗教学者でもあり、親鸞研究で多くの著作を遺されました。加藤先生は東京の私の家に法事の折など訪ねて下さり、その影響で幼いころから「仏さまとは何だろう」と考えるようになっていました。私も還暦を過ぎ、その前後の時期からお店を始めましたので、人生を振り返りまして「改めて仏様のお話を聞きたい」と思うようになりました。ただ、お世話になっている光専寺さんが愛知県にあり、遠くて頻繁にお話を聞きに伺えるような状況ではなかったので、「ここで聴けたらいいな」と思ったのがきっかけです。
―光専寺さんのご住職にお越しいただくのが難しい状況だったため、東京の真宗会館にお声がけをされたのでしょうか。
岩田さん 私も含め周囲の人たちが仏教の教えを聞く機会がない、お世話になっているお寺さえない人もいる実情を考えまして、「それならば自分の店で法話会を開催して、近隣の方々と法話を聞きたい」と思いました。しかし、遠方の光専寺さんに来ていただくのは難しく、かといって近隣のお寺にいきなり相談するのも無理があると思い、光専寺のご住職に私の考えを伝えたところ、「真宗会館に連絡してみたら」と言われて相談した次第です。
―会場をご自身のレストランにした理由を教えてください。
岩田さん 一見関係がないようですけど、昔の辻説法みたいな感覚で身近な所にお坊さんに来ていただいた方が、「ちょっと聞いてみようか」という気になると思います。この地域も高齢者のような中高年以上の方が多いので、地域の交流にもなると考えています。レストランだからこそ、特別に専門化しない雰囲気になっていいのではないかと思うんですよ。音楽も聞いたり落語も聞いたり、その延長で法話を聞いていただけたらいいなと思っています。
エメラルドさん 岩田さんは、「生きていく上で、みんなとなかよくやっていく」といった志があってこの店を始めたとお聞きしました。その流れで、仏教で説かれる仏様の広い心を皆で聞くということに繋がっていったようです。
―実際にお話を聞いて、仏教に対する印象が変わったりしましたか。
エメラルドさん 実は音楽のことを中心に考えていて、仏教のことはあまり頭になかったのですが、岩田さんからお話を聞き、企画について話し合いをして、実際にお話を聞いてみると「すごく優しい教えなんだな」と思いました。難しく考えていたのですが、何も知らない私でもスッと入ってくるような優しいお話だったので、すごく興味を持てるようになって「そんなに難しく考える必要はないんだな」と思えるようになりました。それからは毎月できる限り参加して、先生のお話を聞きたいと思っています。
また、「わだちでブッダ」の講師をされている、不二門至浄さん(流山開教所)と市野光生さん(千葉組 道誠寺)に、会に対する思いをお聞きしました。
―実際にお話しする会場がイタリアレストランで、お寺での聞法会と違う形となるかと思います。講師のお話があった時にどのように思われましたか。
不二門さん 私は開教所を開いているものですから、もともと自分の場所がないところから始めて、これまでに聞法会を始めるのに喫茶店や居酒屋、会議室などいろいろな場所で行ってきたということもありましたので違和感はありませんでした。法話をする自分たちがその場を用意するということではなくて、岩田さんが自分の場所で仏教のお話を聞く場を開きたいと真宗会館を訪ねてくださったということが、私にとってありがたかったです。
市野さん 自坊の法話会ですと来る方が固定されていますが、街中のレストラン、しかも駅に近いところで聞法会が開かれるということは、「お寺の敷居が高い」と思っておられる方も入りやすく、仏教の話が聞きやすくなると思いました。それに自坊でやる場合は「浄土真宗のお寺に行く」という前提がありますが、こういうレストランで「わだちでブッダ」という講座名を聞くと、真宗に限らず「ブッダって何だろう」と興味を持つ方が来られることもあります。
―チラシにも「ブッダの教え」と書いてありますが、法話をされる立場からすると、真宗に限らない話の内容を考えることもありましたか。
市野さん どのような方が来られるのか分からなかったので、最初に担当した回は生老病死についての話をしました。しかし、実際に行ってみると千葉組の行事でお会いする他のお寺のご門徒さんがいらっしゃってまして、「これだったら浄土真宗の話でも大丈夫かな」と思いました。
不二門さん 教えと言えるようなことはほとんど話しておらず、ほぼ世間の話の中で感じたこと、特に生老病死につながっているような出来事であったり、人の言葉であったりとか、それらのことが教えとつながっていることを紹介させていただくようなスタイルで話しているつもりです。極力、仏教用語を用いないように考えてましたので、なかなか法話になっていかない面もあるかと思います。板書やレジュメも使っていませんし、そういう意味では「一つのテーマを、みんなで話し合えるような場所になればいいかな」と考えている部分があります。
初めて「わだちでブッダ」のお話を聞いた時は、聞法会は主に寺院や集会所などを会場とするイメージがあり、レストランを会場にして行うのは難しいと思っていましたが、実際に参加してお話を伺うと、いわゆる「寺離れ」と言われているように、お寺とのご縁をいただくのが難しくなっている今の時代においても、大勢の方が仏教の教えに興味を持っていて、教えについてのお話を聞きたいと思っていらっしゃる事を改めて感じました。教えを地域の方と共に聞くため、自身のレストランで聞法会を行うことを決意された岩田さんの思いは、この時代において尊いものであるように思いました。
「わだちでブッダ」の参加者、スタッフの皆様におきましては、取材に快く応じていただきまして、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
(東京教区通信員 平松正宣)