真教寺は富山県西部の南砺市にあります。南砺市は周辺の8町村が合併して2004年に誕生した市です。

真教寺のある井波は、第5代綽如上人開基の井波別院瑞泉寺を中心として栄えた町で、別院再建時に伝えられた「井波彫刻」が有名な町です。町を歩くと木彫りを制作するノミと木槌の音が聞こえる歴史と伝統が香る町です。最近では空き家をリノベーションし、他地域から起業する方も増加し、新しい風が吹き込んで来ています。

そんな井波に寺子こどもえん(以下寺子)が誕生したのは2013年(平成25年)のこと。たった2人の園児から始まったこどもえん。代表であり、真教寺住職齊藤優華さんに寺子のことをインタビューしてみました。

寺子こどもえんを始めようと思ったきっかけ、願い


齊藤さんは寺子を開設する7年前の2006年から小学生の居場所作りとしてお寺を開放し、「寺子クラブ」を行っていました。最初は子どもだけの居場所づくりにお寺を開放していましたが、3人目の子どもを出産し、そこへ赤ちゃんや幼児を連れたママ友が集まりはじめ、小学生だけでなく、幼児も一緒にいる光景を見た時に、寺子を開くことを決めたそうです。また同じ頃井波別院瑞泉寺境内地にあった聖徳幼稚園が閉園し、宗教教育ができる保育施設が町からなくなることがあってはならないと自ら行動したそうです。

そこには、幼児期しかできないことをお寺で感じて体験して欲しいという願いがありました。手を合わせてお参りしたり、境内で思いっきり遊んだり、お寺の行事に参加したり・・・。

井波ならではの子どもたちに育って欲しいその一心で齊藤さんは寺子を開きました。

園舎もお寺の本堂や広間をフルに活用し、今あるものを工夫して作り上げました。

寺子こどもえんの活動


朝園児は登園し、お寺の掃除、にわとりの世話などをし、1日の活動の準備をします。

続いて、本堂に集まり朝のお参りをします。毎日仏教讃歌「真宗宗歌、回向、恩徳讃、南無阿弥陀仏の子守歌」などをみんなで歌います。また週に一回赤本を持ってみんなで「正信偈」をお勤めします。近くのお寺の若さんに来ていただき、指導していただいているそうです。これらのことは大切だと齊藤さんは言います。ちゃんと座って、話を聞くことができるようになるそうです。

井波別院瑞泉寺へお参り
正信偈のお稽古

また寺子は町やつながりをフルに活用し活動しています。井波の町をお散歩したり、畑や田んぼで食農体験もします。できることはみんなですることが寺子の特色で、食農体験は種をまいて稲の苗を育てたり、田んぼに入り泥だらけになりながら、田んぼを作り、田植えをし、自分たちが食べる米を作っているそうです。齊藤さんは食農体験をとおして、いのちを学んで欲しいと願っています。土にいる小さな生き物もいのち、稲の苗もいのち、それを食べる私たちもいのち、関わってくださる方々もいのち。すべていのちでつながっていることを体感して欲しいと願っています。米のほかにも野菜や味噌造り、ニワトリを飼い世話をし、いのちを大切にする子どもが育まれることを願い活動されています。

畑の草むしり
草の中の虫をさわるふたり
親子で稲の収穫

給食は、野菜中心で郷土料理を取り入れるなどして、旬のものを食べているそうです。また散歩の途中で取ってきた道ばたに生えている山菜や草も調理して食べるそうで、園児は好き嫌いがない子がほとんどだそうです。食器もお寺で御斎の時に使っていた、朱塗りのお椀や器を使い、大切に使っているそうです。

給食(報恩講時)
みんなで作ったトマト

思いっきり体を動かし、食べて、しっかり休む。この活動の積み重ねがひいては、ちゃんと座って、話を聞き、心のあたたかい、しっかりとした見識がある子、目の前のことを見て考え行動できる子、自分の思いを相手に伝えることができる子に育って欲しいと齊藤さんは話してくれました。

田んぼのあぜ道もお散歩

これからの寺子こどもえんについて聞きました。


寺子を取り巻く状況や時代は変わっていきますが、初心を忘れることなく、とにかく続けていく。また地域の方々のお力添えもいただきながら、子どもも大人も一緒に朋(とも)に育っていけるこどもえんを続けていきたいと齊藤さんは話してくれました。

取材を終えて・・。


齊藤さんの思いが身を動かし、現在の寺子こどもえんがあることを強く感じました。できないことを嘆くのではなく、できることを見つけて工夫しながら、地域の方々のお力添えをいただきながら運営されていることに深く感銘を得ました。その中で子どもたちに対する願いが実は私たち大人が忘れていたことではないかと気がつかされました。

まさにお寺だから実現できたちいさなこどもえん「寺子こどもえん」の取材をとおし感じたことです。

(富山教区通信員 竹部俊樹)