愛知県豊田市、四方をビルに囲まれた都会の駅前にその場所だけ時間が止まっているかのように静かに擧母支院は建っていた。
もともと浄土宗のお寺の説教所であったが、真宗大谷派のお寺がもらい受け、「擧母説教所」となり、その後、岡崎市の三河別院に寄進され、別院の支院として現在に至っている。
本堂は一度焼失しているが、約百年の歴史があり、地域のお寺や門徒さんで構成されている建物保存会などさまざまな人たちに支えられ、毎年五月には「擧母寄席」として落語の会場に使用されるなど、都会のオアシス的な存在として親しまれている。
また、特命住職代務者の渡邉晃純氏を中心に、修正会、春と秋のお彼岸、報恩講などの年中行事のほかに、一般寺院ではなかなか行うことのない『夏の御文』を勤めたり、蓮如上人の略伝などの法宝物を備え、別院の支院として活動している。
さらに、支院は都会のなかで、少しでも地域の人の憩いの場になってもらいたいと、積極的にさまざまな工夫をしているという。
もともと境内は散歩などの通り道になっていたため、座ることのできる場所を造ったところ、お弁当を持ってきて食べる人がいるなど、のんびりとした空間がひろがってきた。
最近では夏休みにラジオ体操を始めたところ、小規模ながら人が集まるようになり、そのまま本堂で朝のお勤めにお参りいただけるようになってきた。
一方、花や木など緑が増えれば気持ち良くお参りいただけるのではと、人に勧められていただいた蓮を境内で育て始めた。今年の三月に植え替えのレクチャーをして、近所の人に種をお分けするなど好評をいただいている。
本堂でお参りしている最中にも境内を散歩する人たちと笑顔で挨拶を交わす在勤の遠田義美さんの姿に、地域の人たちの声に耳を傾けながら、愛される、開かれた支院を目指している日々の努力がうかがわれる。
今回の取材をとおして、これからの擧母支院が、仏事はもちろん、多方面な会所としてさらに市民に開放され、そしてそのことが縁として豊田の真宗寺院の教化活動の活性化に結びついていくであろうと感じた。
(岡崎教区教区通信員 天野健太)
『真宗 2009年(9月)』
「今月のお寺」岡崎教区第25組三河別院擧母支院
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。
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