ふるさとが好きで、島に帰って来る人々

薩摩半島から西へ約30キロ、串木野新港から東シナ海の大海原をフェリーで約2時間。そこに、200メートルを超える山々が連なる緑豊かな島・甑島(こしきじま)はあります。甑島は、上甑島・中甑島・下甑島の3つの島からなっています。そのうち、人口約2000人が暮らす下甑島に、真宗大谷派の寺院が4ヵ寺あります。さらに、集落に所在する説教所も2ヵ所あり、それぞれが聞法の道場として、島のご門徒さんにより大切に守られています。

甑島と串木野を結ぶフェリー。写真は、島を離れる先生を紙テープで見送る子ども達。
甑島と串木野を結ぶフェリー。写真は、島を離れる先生を紙テープで見送る子ども達。

島には高校がないため、中学卒業と同時に島外に出て行く方が多いとのことです。そして、島外で仕事をし、定年退職を迎え島に帰って年金生活を送る…。ふるさとが好きで、ふるさとを大切に思う方々が多いのも、この甑島の大きな特色です。

200メートルを超える山々が連なる甑島
200メートルを超える山々が連なる甑島
港の周りにひろがる集落
港の周りにひろがる集落

「年金生活を送るには、島の生活はお金もかからず、気持ちも穏やかに生活ができる。趣味で釣りをしたり、気持ち一つで豊かな自然の中で、自給自足の生活もできるのがこの島の魅力」。定年後、島に帰ってこられた方々は口々に「島に帰ってきてよかった!」とお話されていました。

 お寺が島の生活の原風景 ~人口約2000人の島に4つのお寺と2つの説教所~

そんな島の生活の中心には、浄土真宗のお寺があります。

同朋会の様子
同朋会の様子

甑島では古くから念仏の教えが大切にされ、江戸時代には、火炙り・拷問といった激しい念仏弾圧が行われた地域もあります。そのような中でも「かくれ念仏」という形で、教えが今日まで伝わっています。

 

かくれ念仏の跡への道を示す石碑
かくれ念仏の跡への道を示す石碑

「島に帰って来ると、みんな自然な形で寺の役を引き受けていますよ」と、定年後島に帰ってきた60代の男性はお話されました。平成に入ってからの30年で、空き家も目立つようになり、門徒数も2/5程度にまで激減しているとのことですが、お寺での思い出は島の皆さんの記憶の底に残っているようです。

 

「昔は、日曜学校で毎週お寺に通って正信偈を覚えたり、先生(住職)の話を聞いたもんです。お寺が、私らの子ども時代の思い出です」と、楽しかった子ども時代を懐かしみながら教えてくださったのは、町の人々が集う喫茶店で偶然一緒になったご門徒の女性です。

 手づくりの花まつりが、集落一番のお祭り

各寺院では、花まつりが行われています。子どもの姿はそこに見えなくなってしまった地域もありますが、「ウミネコ留学」で島外の小学生が毎年新たに暮らす地域では、留学生の子どもたちも加わった稚児行列が行われ、ご門徒が太鼓や三味線で囃し立てながら、花御堂と共に集落を練り歩いているそうです。

花まつりの稚児行列の衣装を準備する婦人会の方。被り物には、五環紋が折り紙で貼られている。
花まつりの稚児行列の衣装を準備する婦人会の方。被り物には、五環紋が折り紙で貼られている。

ご門徒はその花まつりを何よりも楽しみにしているそうで、お邪魔した日も稚児の衣装をお寺の婦人会の皆さんが、手づくりで作っておられる真っ最中でした。「世代を超えてみんなで作るこの花まつりが、この集落の一番のお祭りです」と作業の手を止めて、にこやかにお話いただきました。

 

共同作業でつくる、お寺での年中行事をこれからも大切にしたい

今回は、直接各寺院を訪問し、ご住職(代務者)さんやご門徒さんの声を聞かせていただくとともに、下甑島の4ヵ寺の代表の方に一堂に集っていただいてのワークショップ形式での意見交換会も行いました。(ワークショップの内容は、下記のとおりです。)

 

《ワークショップの内容》

1.自己紹介(「名前」・「所属寺」・お寺が子ども時代の原風景であったことをふまえて、「自分が子どもの頃、○○な子どもだった」)を付箋に書き出してもらい1人ずつ発表。

2.「(お寺で)大切にしたいこと」を付箋に書き出し模造紙に張り付ける。

3.「(お寺や仏事に関することで)やってみたいこと」を付箋に書き出す。

4.横軸に「すぐできること → 時間のかかること」、縦軸に「本山・教区・組・島内の寺院・お寺・家族」を取り、「3」で書き出した付箋がどこに当てはまるかを話し合いながら張り出す。

5.グラフをみながら、「○○」をやるには、「○○」が必要だという話し合いをして、適宜付箋を追加。

6.リーダーによる発表。

 

寺族と門徒によるワークショップの様子
寺族と門徒によるワークショップの様子
話し合いの結果を発表する門徒の方々
話し合いの結果を発表する門徒の方々

「お寺での年中行事(花まつりをはじめ、報恩講や彼岸会など)は、手づくりの共同作業の中で宗教的な感覚が自然と生まれてくる。そんな年中行事をこれからも大切にしていきたい」、「みんながお参りしやすいお寺にしたい」、「人の出入りがいつも見えるようなお寺の風景にしたい」、「昔あった日曜学校のようなものをやってみたい」などの意見が出されました。その他、他の寺院の取り組みを見学して、仏花やお荘厳、行事の内容などを幅広く学んでみたいといった、普段からお寺の仏事に積極的に関わっているご門徒ならではの意見も出されました。

 「少欲知足」「和顔愛語」の生活

春の潮風が緩やかに吹く島内を車で走っていると、歩いてすれ違う人だけでなく、走行中の車に乗っている人に対しても、立ち止まってにこやかに会釈をする子どもをはじめとした島の人たちに出あいます。これは、いつしかはじまった島の風習だそうです。新緑の山の景色と相まって、こちらの気持ちも優しくなるような、そんな出あいに、「和顔愛語(わげんあいご)」という言葉がふと頭をよぎりました。緑豊かな自然と共にある「少欲知足(しょうよくちそく)」の生活、そして「和顔愛語」。甑島には、念仏の教えが深く息づいた生活があります。

09.

 

寺院活性化支援室では、お寺の教化活動を一緒に考えます。

詳しくはこちらまでhttps://jodo-shinshu.info/shienshitu/