寺院活性化支援室の寺院運営支援「元気なお寺づくり講座」が開催されている長崎教区。教勢調査からも教化活動が盛んなところとして知られています。今回、長崎教区仏教青年会で始まった新たな取り組みを機縁に、お寺の若手とご門徒による運動部が結成されていると伺い、結成のきっかけとその背景について、武宮智さんと野口唯照さんを取材しました。
「集まって運動したいよね」の声が形になる
-長崎教区仏教青年連盟-
2019年7月18日(木)19:30~21:30大瀬戸総合体育館
※最後列左から4人目が武宮智さん。2列目中央白いTシャツが野口唯照さん。
■インタビュー
武宮 智 さん:長崎教区仏教青年連盟委員長。光明寺(長崎教区第2組)衆徒。
野口 唯照 さん:善正寺(久留米教区八女第1組)衆徒。光明寺(長崎教区第2組)にて法務に携わる。
Q、きっかけは?
野:長崎の若手の中で、集まって何か運動したいという声があがり、最初は若院らをはじめとするお寺の若手だけで運動部を始めました。その後、「長崎寺スクール」を開催することになり、そこで呼びかけたところ、ご門徒まで広がりました。
Q、良かったことは?
野:地元を離れているので、同年代の人と気軽に集まって、ちょっとスポーツをしたり、食事に行ったりということがなく、少しさびしいなと思っていました。だけど、運動部が結成されたことにより、初対面の人とでもスポーツを通して打ち解けることができますし、その後に行ける人で食事に行ったりと、地元を離れても同年代の人とのつながりができて良かったです。
気軽に運動をしたいという声は広がり、現在では規模が大きくなり、ご門徒を含めて30名ほどの部員がいます。お寺の行事の無い日などに日程を調整して開いているのですが、開催すると人が意外にも集まるもので、長崎市内から西海市まで来る人もいます。毎回15名前後は参加しています。このあたり(西海市)のご門徒はほとんど毎回参加してくれています。
また、私を含め、中には「本気で運動したい」という声も出てきましたので、最近バスケットボール(ミニバスケ)の18名のチームができました。週2回、本気で打ち込んでます。一人だとなかなか運動はできないですけど、集まるとみんなで楽しく体を動かすことができるので、結成して良かったですね。
実際のところは、若い人が気軽に集うことができる場は少ないと思います。僕はこの地に来て4年ほど立ちますが、最初は知っている人も、どんな人がいるのかもわからなかった。でも、「運動をしよう」と集まり、「長崎寺スクール」でも若い人が集まり、気軽に集まることができる場ができ、日々が潤っているように感じています。
Q、もともと仏青や教化活動が盛んだからできたのでしょうか?
武:実は、「かつて盛んだった」という印象です。長崎は原爆の投下による被害を受けました。戦後、焼け野原となった町に復興として建物が次々と建てられていく過程で、どこに向けたら良いのかわからない若い人のエネルギーがお寺に集まり、人が集まっていったという経緯があります。当時に比べ、今は勢いもなくなり仏青がなくなってしまったお寺もある中で、数カ寺のお寺だけに仏青が残っていました。
私は、16年前にお寺に戻ったとき、若い世代に仏法を伝えたいと常々思っていました。そこで、色々な人との関わりの中で、私もお寺で仏青を立ち上げました。立ち上げたことにより、仏青の残っているお寺とも交流したいと思いました。その時に、ちょうど長崎教区仏青での委員長の任期交代の時期が来ていたということもあり、私がお役をいただき、「長崎寺スクール」を企画しました。そして、まわりの人やお寺に声を掛け、2017年10月22日に「長崎寺スクール」を第1回を佐世保別院で開催することになりました。
Q、「長崎寺スクール」とはどんな会ですか?
武:しんらん交流館では「しんらん交流館テラスクール」を子ども向けに開催されていますね。「長崎寺スクール」は20~40代が対象で、コンセプトは、「学び」と「出会い」です。お寺は歳をとった人が行くところというイメージがありますが、お寺は学校のように色んなことを学ぶことができるところであり、様々な出会いがあるところであるということを伝えたいと思いました。
Q、開催ペースはどのように決めたのでしょうか?
武:企画にはお寺の若院、僧侶、若い門徒の方が加わり、意見を交わしながら準備を進めました。その結果、第1回目は50名ほどが集まり、盛り上がりました。それを受けて、今後どうするかを話し合い、年2回なら無理なく開催できるのではないかということになりました。それから2年が経ち、先日の6月16日の開催で第4回を迎えました。
Q、面白い工夫はどうやって生まれるのでしょうか?
武:例えば懇親会の食事。第1・2回目の料理はペルー料理でした。これは、若い人に声を掛けたところ、地元にいる若いご門徒は商工会などに所属しており、顔が広いです。企画の打ち合わせをしているときに、「近くにペルー料理のお店の人がいるよ」という意見が出たことで食事の内容が決まりました。お斎と言えば、お弁当か仕出しというイメージがありますが、佐世保別院の会館は新しくなり、台所も広いので、ケータリングでお願いしました。
第2回目は、これも会場の近くに味噌屋さんがあるという意見から、味噌作り体験をお願いすることになりました。
第3回目は、各組を巡回していこうという意見から、長崎市内のお寺を会場に、非戦・平和を学ぶフィールドワークにしました。こちらもご門徒31名、スタッフ含め50名程の参加でした。
「長崎寺スクール」の立ち上げのときからご門徒が関わっているので、色んな意見が出てきますね。
Q、ご門徒との関わりが深い理由は?
武:長崎は子ども会を開催しているお寺が多いので、子どもの頃からお寺に関わることに抵抗がないということがまず一つあると思います。また、保育園を運営しているお寺が多いということも理由だと思います。保育園の先生や保護者の方に、参加を呼び掛けるつながりがあります。
また、私のいるお寺では、父が20年ほど前に始めたご門徒の雅楽の会があります。「楽僧」ではないので、「楽人」と呼んでいますが、その会に30代くらいの若い人が結構いらっしゃるので、「長崎寺スクール」立ち上げの際は協力してもらいました。このあたりでは、お寺ごとにご門徒の雅楽の会が多く、新しく結成するお寺もあります。講師を招いて学ぶのではなく、ご門徒が伝承し、研鑽し、新たな人を迎えてくる。こうしたお寺主体ではない会が、ご門徒の中で地域の活動として根づいているからこそ、声を掛けたときにご門徒同士で広がるのだと思います。
Q、ご門徒との関わりはどのように作るのでしょうか?
武:ご門徒との関わりには、背景として推進員養成講座があると思います。先ほどご紹介したお寺の雅楽の会も推進員の方が中心となって結成されたと聞いています。推進員養成講座を受けた方が、お寺の同朋の会に加わる、あるいは、お寺の同朋の会の方が推進員養成講座を受講し、同朋の会の中心として企画に参加する、という流れをまずは作ったと聞いています。
長崎教区第2組は推進養成講座が活発で、現在第11期を迎えており、修了者が光明寺だけでも120名ほどおられます。その方たちに、推進員になって熱のある間に、お寺の企画や何か集まりに加わってもらい、中心的に動いてもらえるようにしています。
その積み重ねがあったからこそ、今回のように新しい企画を行う時にも、協力してもらうことができたのだと思います。ただ、声を掛けても広がらないし、失敗すると思います。その土壌には、お寺に集まり、教えを聞き、伝えたいという人の誕生の積み重ねが必要です。自分の代だけでななく、自分たちの前の世代の積み重ねが、環境をつくり、今、力を発揮しているのだと思います。
焦ってはいけないと思います。
他のお寺の方も、声を掛けて人が集まってきてくれるようになるには何年もかかったと聞いています。地道な活動を続けることで今がある。そのことは忘れないようにしたいと思います。
Q、第4回は運動を中心にされていますね?
武:波佐見町は焼き物の町で有名ですが、スポーツの盛んな町でもあり、お寺対抗のミニバレーを開催しました。波佐見町のスポーツへの熱気を感じました。参加者が今までの2倍、100名近くになり、大規模なスポーツ大会のようになりました。お寺の事業なので、勤行、法話の後に運動、という流れにすることは大事にしましたが、盛り上がりましたね。
野:大変な盛り上がりで、面白かったです。勤行のときは、みなさん子ども会などで練習をして育っているのでお勤めができます。ですから、体育館いっぱいに100名近くのお勤めの声が響き渡り、驚きました。日頃、お寺との関わりがあるということがはっきりとわかる光景でした。
Q、法話はどなたが担当するように決めていますか?
武:最初は教務所長にお願いしました。それからは、ご門徒を含めた役員会を開催し、そこで毎回決めています。第2回は、会場が委員長である私のいるお寺が会場だったので、隣のお寺の若院にお願いしました。第3回からは会場となるお寺の住職や若院が担当するということで固まりつつあります。
Q、企画から開催までに必要な期間は?
武:案内を出すのが2か月前です。役員会は3か月前に開いて準備をしています。
会場は、新年度が7月なので年度末の6月に次の2回分の内容を役員会で決めて、長崎教区仏青の総会で報告、承認を得て開催に至っています。
■運動部の様子
会場に伺うと、大瀬戸総合体育館には運動部のメンバーがすでに集まっていました。運動部の時間は19:30~21:30。お仕事や夕食を済ませた後の人も子どもを連れて参加できる時間です。
来た人から着替え、ネットの設営を行い、人が集まったところで準備運動。
この日、参加されていたのは保育園の先生方をはじめとするご門徒と、教区内の寺院の方。保育園の先生方は長崎教区での児童大会への参加をきっかけに運動部に参加するようになったそうです。
「そんなに激しくないけど、ちょっと本気で運動できるからいいですよ」
「すぐに打ち解けられるので、地元の人じゃないですが、誘ってもらえてよかったです」
「気軽にと思って始めましたが、ゲームになると意外と真剣になっちゃいますね」
参加の方々からは、チームプレーによる結束と、運動後の清々しい雰囲気を感じました。
「若い人が興味を持ち、面白いと思ってもらえる企画を考えたい」という声を耳にします。今回訪れた長崎教区仏青運動部の取り組みからは、まずは「みんなで集まって運動しよう!」という気軽な雰囲気と、凝らずとも盛り上がることができるという一つの例を見せていただきました。また、何年も積み重ねてきた地道な教化への取り組みと、ご門徒と一緒にお寺のことを企画していく仕組みが、人が集まる環境を作るということを教えていただきました。新たにお寺で始める取り組みも「焦らず」「根気よく」続けていくこと。そんなメッセージをいただいたように思います。
(企画調整局)