●組内僧侶の法話研修の場がご門徒の聴聞の場に●
広島県山県郡北広島町内の6ヵ寺で構成される山陽教区安芸北組(あきほくそ)。毎年8月1日から6日にかけて、日替わりで組内すべての寺院を会所として「暁天講座(ぎょうてんこうざ)」が行われています。
朝5時半すぎには、ご門徒さんが近隣各地から続々と車や徒歩で会所寺院に集まってきます。取材に伺った日(8月3日/会所:專光寺さん)は、県境を越えて島根県から来られた方や、浄土真宗本願寺派(お西)のご門徒さんも聴聞に来られていました。期間中は毎日60~70名の参詣があり、組内寺院はそれぞれ車で15分程で行き来できる距離に所在していることもあって、6日間すべての日程にお参りされるご門徒さんも何人もおられます。
この暁天講座ですが、取り組みが始まったのは2007年、今年で12年目となります。当初は、組内僧侶の法話の勉強の場として企画されたものだったそうですが、ご門徒さんに声を掛けたところ、ご門徒さんもたくさんお参りされる現在のような暁天講座の形になったということです。
講師は、組内の住職を中心とした組内寺院に所属する僧侶が年齢順で毎年担当しています。6日間すべての会所で聴聞されるご門徒さんもおられるので、講師を担当する僧侶にとっては一座20分~30分の法話を6日間で計6座勤めることになり、非常に勉強になるとのことです。
組内住職や坊守さんも本堂に座られ、寺族研修としてはじまった当時の願いもしっかりと根付き、まさに門徒と僧侶で形づくられる組の教化事業となっています。
●安芸門徒の空気を感じる法話●
今年の講師は、安本浩樹氏(安芸北組專光寺住職)が勤められ、「人と生まれたことの意味」という宗祖親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要のテーマにちなんだ講題が掲げられていました。
法話では、「暑い中、草取り、大変ですね」と門徒さんに話しかけたところ「草取りは大変ですが、草が生える所でないと作物もできませんからね」と返されたことや、法事に伺った先で「この綺麗な花は、何という花ですか?」とご門徒さんに尋ねたところ、「ようわかりません。私はこの年齢になって、覚えるのをやめたんです。覚えさえせにゃね、忘れんのんです。ただ、綺麗な花を見てね、綺麗だなと思えば、それで充分なんです」という、中国山地・安芸の大地に根差して念仏の世界を生きるご門徒さんの言葉が紹介されました。
そのように、ご法話で触れられるご門徒さんの姿からも、真宗がこの地の生活の中に今も確かに息づいている様子が感じられました。
●世代をつなぐ参拝者の姿●
まだ夜が明けて間もない時間帯に講座に集まってくる地域のご門徒さんの活気の中に、静かにお孫さんの手を引いてお参りに来られるおばあちゃんの姿がありました。
「ばあちゃんが、朝の早くから、どんないいところにいくのかと思って、孫もついてきたんです」と笑顔でお話くださいました。お孫さんは外孫で、夏休みに祖母の家に遊びに来ている所だそうです。正信偈のお勤めも、おばあちゃんに教えてもらいながら勤行本を手にする、それは何とも尊い姿でした。
また、祖父の姿を見てお寺に身を運ぶようになったという高校を卒業したばかりの18歳の若者の姿もありました。「話(法話)は、わからんこともあるけれど、人生の勉強になります」と、会所の後片付けまで積極的に手伝っている姿が印象的でした。
彼のおじいちゃんにお話を伺うと、お孫さんは毎朝墓参りも欠かさないとのことです。
「私が教えることはできんけ。姿を見せるしかないけ」と語るおじいちゃんの背中に沁み込んだ仏法を、18歳のお孫さんはしっかりと受け取っておられるようでした。
僧侶の研修からはじまった組の事業が、こうして念仏相続の大切な場として、しっかりと根付いています。