-京都教区の大谷大学業生が中心となって結成された「京都大谷クラブ」では、1956(昭和31)年から2019年12月にかけて毎月、『すばる』という機関誌が発行されてきました。京都市内外のご門徒にも届けられ、月忌参りなどで仏法を語り合うきっかけや、話題となるコラムを掲載。その『すばる』での連載のひとつである「真宗人物伝」を、京都大谷クラブのご協力のもと、読みものとして紹介していきます。近世から近代にかけて真宗の教えに生きた様々な僧侶や門徒などを紹介する「人物伝」を、ぜひご覧ください!

真宗人物伝

〈22〉大草恵実
(『すばる』743号、2018年4月号)

                  超世院釈恵実似影(長覺寺所蔵)

            超世院釈恵実似影(長覺寺所蔵)

 

1、堂僧・別院輪番として

近代大谷派における社会事業の先駆者に大草恵実(おおくさえじつ)(1858~1912)という人物がいます。近世に代々堂僧(御堂衆、堂衆)を務めた長覺寺(山城第1組、京都市下京区)に生まれ育ちました。明治5年(1872)8月22日、宗門改革により、家職として堂僧を継職することは一旦途絶えますが、明治8年(1875)、18歳の大草は追加式務課役員として「堂僧助勤」に就任しています。当時の堂僧の職務は、現在より多様だったようですが、儀式執行の任務にも携わり、声明の練習にも精を出していたことでしょう。

 

宗門での信任もあつかったからでしょうか、33歳となった明治23年(1890)、9月13日付で堂衆の大草は、井波別院輪番を兼務することとなりました。そして明治28年(1895)、38歳の大草は5月18日付で浅草別院輪番に就任しています。この時点で、すでに浅草別院輪番補番であり、それ以前から浅草別院に在勤していたようです。様々な問題を抱えた別院の運営において、政治・行政上の手腕を発揮しました。

 

2、キリスト教・外国に対する意識

大草の功績を振り返ると、キリスト教との対抗や海外(・・)への視野を持ち合わせていたことが分かります。それは、それまで居留地に限定して居住していた外国人が、日本の内地で自由に住居できるようになる内地雑居(ないちざっきょ)という問題に向き合わざるを得なかった時代性にもよるでしょう。明治27年(1894)に実施が決定し、明治32年(1899)から実行されますが、その後も是非が論じられました。

 

明治31年(1898)から翌32年にかけては、巣鴨監獄教誨師事件(すがもかんごくきょうかいしじけん)(巣鴨監獄の教誨師の職をめぐるキリスト教との対抗)と宗教法案(政府がキリスト教と仏教を同等の待遇にしようとした)に対する反対運動への対処に、浅草別院輪番として奔走しました。

 

明治33年(1900)、シャム(現・タイ)から日本へ贈られることになった仏骨(釈迦の骨)を持ち帰るため、日本仏教諸宗派からなる奉迎使が派遣されました。正使を務めた大谷派新門・大谷光演(1875~1943)に大草は随行しています。

 

明治34年(1901)10月13日、京都から東京の巣鴨へ移転された真宗大学が開学しますが、その移転事業でも大草は大きな役割を果たしています。移転先の真向かいには、巣鴨監獄教誨師事件で新たに教誨師へ着任したものの排斥された、キリスト教の留岡幸助(1864~1934)によって、家庭主義による感化事業として開校された「家庭学校」が、奇しくも設立されていました。

 

明治43年(1910)11月に英文と和文からなる『真宗要旨』という小冊子が、大草による編集で浅草別院から刊行されました。これは、真宗の歴史(・・)教義(・・)の一般的なことを知ろうとする日本に訪れた外国人に向けて、翌年に控えた御遠忌を記念して出版されたものでした。

 

3、社会事業への取り組み

大草が輪番をつとめた浅草別院の周辺には、各地から仕事を求めて都市にやってきた労働者たちの集住する地域もありました。住居や仕事が充分に提供されていなかった現状を目の当たりにした大草は、明治34年に、止宿と職業紹介を目的とした無料宿泊所を開所します。近代日本における先駆的な社会(・・)事業の1つを、行政に先駆けて大谷派が始めたのでした。明治44年(1911)には、浅草別院に本部を置いた大谷派慈善協会が発足され、大草の理念が継承されていきます。

 

大草の人生を通覧すると、社会(・・)事業のみならず、儀式(・・)国際(・・)歴史(・・)教義(・・)といった諸分野に精通していたことが分かります。ともすると個別分野に視点が限定してしまいがちな現代の私たちに対して、広い視野と分野横断的な交流が、次代を切り開く際に必要であることを教えてくれる人物ではないでしょうか。

 

 

■参考文献

小笠原義雄『浅草本願寺史』(浅草本願寺、1939年)

松金直美「真宗寺院における建築・荘厳の形成―洛中堂僧寺院を事例としてー」(教学研究所編『教化研究』158号、真宗大谷派宗務所、2016年)

佐賀枝夏文「近代真宗大谷派の社会的実践のあゆみ」(教学研究所編『教化研究』161号、真宗大谷派宗務所、2017年)

 
■執筆者

松金 直美(まつかね なおみ)