オリジナルの仏教絵本をつくって朗読を披露している東京四組・緑雲寺。ここ数年報恩講と永代経で演じられている人気の演目。副住職自ら絵本をつくっているとのことで、そのユニークな活動を取材しました。
《きっかけは全面改築》
東京新宿区にある緑雲寺は、地下鉄牛込柳町駅から徒歩5分にあります。木の縦格子の印象的な建物は、本堂・庫裡を収容するもので、4年前に建て替えたばかり。それというのも門前の外苑東通りが拡幅されることになり、墓地の半分と駐車場が削られることになってしまったからです。近くに代替地はなく、思案の末、境内のすべての建物を解体し、墓地の半数以上を敷地奥に移転させ、本堂・庫裡が完成。2017(平成29)年一連の大工事が完了しました。
《落慶法要》
同年11月に落慶法要が報恩講に合わせて執り行われました。法要では雅楽入りの勤行、起立散華、稚児出仕など華やいだ雰囲気につつまれました。そして、これらの演目のひとつとして、オリジナル仏教絵本の朗読が初めて演じられたのです。
《絵本朗読》
勤行前の昼休み、本堂には大型スクリーンが設置され、プロジェクターによって絵が投影されます。そこで副住職の佐々木裕氏が朗読をしながら、次々と絵をめくっていくというもの。また当日は全ての演目が終了した後、帰り際に門徒さんへ絵本をプレゼントするという特典付き。
副住職の裕氏は次のように振り返ります。
「最初は落慶法要で何か面白いことが出来ないかと考えました。そこで思いついたのが、オリジナル仏教絵本制作と朗読でした」。
裕氏はもともと出版社やデザイン会社に勤めた経歴の持ち主。自らの経験を生かした活動で、門徒さんに喜んで頂けるのではないか、そんな思いで始めたと言います。
「絵本の朗読は、その場でしか聞けない特別な体験といえます。門徒さんにお寺に足を運びたいという気持ちを持ってもらいたい。本来お寺の持っている“場を共有する”という役割の新たな試みといえます」。
《門徒さんの反応》
門徒さんの中には、この朗読が聞きたくて報恩講・永代経に足を運んでいる方もいるそうです。いつもお手伝いとして参加している門徒のKさんは、毎回楽しみにしており、
「法話を聞く機会は多いのですが、いつもなかなか頭には残らないものです。それが絵本になることで、とても印象深く残ります。それまでバラバラだったイメージがつながる思いがします」と話し、これからどんな作品が出てくるのか待ち遠しいとのことでした。
《絵本制作》
絵本の制作には、絵具や色鉛筆は使わず、すべてデジタルで行うとのことです。裕氏は、デザイン会社に勤務していた時、最新のコンピュータグラフィックスを手がけていました。イラストは自ら描いていますが、デジタルを使いながら水彩のアナログ感をどう描くかが腕の見せ所。また紙面レイアウトなど、編集や仕上げもすべて行い、印刷所に最終データをネット入稿すれば、後日絵本が納品されるという流れです。
「今の技術革新はすごいと思います。パソコンとソフトがあれば一人で本をつくれてしまう時代ですからね」。
副住職の佐々木裕氏
絵本制作の様子
《シリーズ化》
1冊目で取り上げたのは「仏説阿弥陀経」。いつも法要で称えるお経で慣れ親しんでおり、また極楽浄土の光景などが絵になりやすいと思ったからだそうです。実際お経の内容に沿って、場面を絵に起こしていくことはとても楽しい作業だったそうです。この1冊目をきっかけとして、半年後の永代経では2冊目「ブッダ 最後の旅」と続き、シリーズ化されたのでした。3冊目は「善導大師」、そして4冊目の「法然上人」が最新となります。
「普段の法事や葬儀の場でも、門徒さんと歓談しているときに絵本をお渡しすることがあります。するととても興味を示してくださり、話が盛り上がるものです。仏教や真宗に興味を持って頂くきっかけとしはとてもいいツールだと思うんですよね」
今年は、新型コロナウイルスの影響で、永代経・報恩講ともに内勤めとなり、残念ながら絵本朗読をする機会はありませんでした。
↑ 絵本の中身(一部)をご覧いただけます
《今後にむけて》
次はシリーズ5冊目。いよいよ正信偈を取り上げる予定とのことです。阿弥陀経に始まって、ブッダからようやく親鸞にたどり着こうとしています。
「門徒さんに向けて、これからお寺が何をどう発信していくか。やり方はいろいろあっていいと思う。私は自身の経験を生かせるこの絵本制作と朗読を通じて、今まで以上にお寺や真宗に興味を持ってもらえるよう、活動を続けていきたいと思います」
そう語る裕氏は次回の構想を膨らませているといいます。どんな絵本が出来るのか、今後も期待したいところです。
(東京教務所)
※絵本に関するお問い合わせは真宗大谷派 緑雲寺【03-3203-3307】までご連絡ください。