新型コロナウイルス感染症の影響下では、求められる感染対策のため、法要の規模を縮小されたご寺院も多いかと思います。一方、参詣者の分散をはかるため、永代経(永代祠堂経)の厳修期間を拡大するといういわば逆転の発想で、門徒さんの思いに向き合われたご寺院の様子を紹介します。
なお、光照寺さんの取り組みは「新型コロナウイルス感染症の影響下における寺院の教化活動の工夫に関する調査」により情報が寄せられ、同報告書にも紹介させていただいております。
門徒さんの声に促されて
「寺は、コロナを言い訳にしている!法語の1つでも書いて、配って歩けばいい」
教区のとある会議の席で、門徒さんが檄を飛ばしました。そこに同席していた一人の住職がいます。
「コロナ禍を理由に、行事をやめるのは簡単です。しかしお寺の本来の願いに立ち返ってみたとき、何とか工夫して別の形でもやるべきだと思ったんです」
元気よく思いを話してくださったのは、富山教区第13組光照寺の25代住職・藤條法彰さん。
富山県の東端に、朝日町という町があります。北陸はかつて真宗王国と言われていましたが、今でも田舎に行くほど真宗の土徳が残り、信仰の熱を感じることがあります。そんな朝日町で護持されてきた光照寺は、少なくとも蓮如さんの時代よりも遡るとされる御本尊が現存し、古い歴史を持つ真宗寺院です。
密を避ける必要性から逆転の発想へ
そんな歴史と信仰の深いこの地域でも、昨年(2020年)来のコロナ禍の影響は非常に大きいものがありました。月参りや法事は激減。何をするにも「まず人が集まること」で成り立ってきた寺院は、聞法の道場としても、また経済的な意味でも、苦境に立たされました。
光照寺も例外ではありません。悩んでいるうちに、祠堂経の時期が近づいてきました(北陸では永代経の事を祠堂経という地域が多い)。光照寺では、毎年6月に5日間の永代祠堂経を勤めます。地区ごとに日が割り当てられ、毎日30人ほどのご門徒さんが参拝。もちろん法話やお斎もあります。コロナ禍の中、今年はどうするのか。中止にするのは簡単だが、何もしない寺でいいのか。しかし普段通りに人を集めていては、いわゆる三密になってしまう…。
そこで住職が考えついたのは、なんと従来5日間の祠堂経を、1か月間に拡大して勤めるという逆転の発想でした。
門徒さん一人ひとりと丁寧に向き合えた1か月間
1か月間毎日、祠堂経のお勤めをし、短い法話をする。ご門徒さんには、故人の命日に合わせてお参りしていただくよう案内しました。これで自然と参拝日が分散し、おおよそ毎日0~5人となりました。もちろん参拝がない日もあります。それでも毎日勤める。少なくとも住職・坊守さん前坊守さんの3人は毎日本堂に座り、教えを聞いたのです。
ある日は、参拝の方が1人でした。そのご門徒さんは「私1人でもお経が読まれ、びっくり。まるで我が家の法事みたいだった。ありがたかった」と感激。また、せっかく1か月間あるのだからということで、連れ合いさんの命日やお爺さんの命日など、何度も参った方もおられたそうです。
住職は「1日の人数が少なくなり、かえってその人に合わせた内容で法話をすることができました。また参拝のお一人おひとりと、ゆっくり話ができたのも良かった」と振り返ります。
そして1か月が終わり…永代祠堂経全体の参詣人数は、延べ人数で例年よりも増え、納められた御懇志も増加。これも、門徒さんの一人ひとりと丁寧に向き合えた結果の1つなのかもしれません。
光照寺の藤條法彰住職
危機から確かめられたお寺の原点
「永代祠堂経の願いとは、聞法の道場たる寺が永代に渡って護持され、仏法が相続されていくことなんです。コロナを理由に、何もしない寺でよいわけがない」
住職は、それまで力を入れてこなかった寺報も新たに始めました。A4の紙1枚の寺報ですが、毎月作り、同朋新聞と一緒に門徒さんに届けています。
コロナ禍はお寺にとっても危機に違いありません。だからこそ、寺とは何のためにあるのかを考え、今何をすべきか。従来と違う形でも工夫してやってみると、新たに見えてくることや気づかされることがありそうです。
(富山教区駐在教導 鷲尾祐恵)