京都教区の大谷大学業生が中心となって結成された「京都大谷クラブ」では、1956(昭和31)年から2019年12月にかけて毎月、『すばる』という機関誌が発行されてきました。京都市内外のご門徒にも届けられ、月忌参りなどで仏法を語り合うきっかけや、話題となるコラムを掲載。その『すばる』での連載のひとつである「真宗人物伝」を、京都大谷クラブのご協力のもと、読みものとして紹介していきます。近世から近代にかけて真宗の教えに生きた様々な僧侶や門徒などを紹介する「人物伝」を、ぜひご覧ください!

真宗人物伝

〈33〉乗如上人
(『すばる』754号、2019年3月号)

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乗如上人御影(高田別院所蔵)

 

1、継職をめぐる紆余曲折

東本願寺19世となった乗如(じょうにょ)上人(1744~92、在職1760~92)は延享元年(1744)11月19日に、17世真如上人(1682~1744、在職1700~44)の5男として誕生しました。ただし父である真如は同年10月2日、すでに63歳で亡くなっておりました。

乗如は、生まれた当初から本願寺を継職する立場であった訳ではありませんでした。真如の後継者と目された玄如上人(真如次男、1721~42)、融如上人(16世一如上人孫、1723~44)が相次いで没したため、従如上人(一如孫、1720~60、在職1744~60)が18世となりました。その従如の子息4人は、相次いで早世してしまいます。宝暦10年(1760)7月11日に従如が没した時、待望の子息である応如上人(1759~76)はいまだ2歳でした。そのため従如の養子となって得度していた17歳の乗如が、19世を継職します。

その後、応如上人が新門主(後継者)となるのですが、安永5年(1776)5月16日に17歳で没してしまいました。20世を継職する達如上人(1780~1865、在職1792~1846)は、乗如39歳で誕生した子息であり、寛政4年(1792)2月22日に49歳で亡くなった乗如の後を、まだ幼い13歳で継職したのでした。

このように乗如の前後における本願寺歴代の継職は紆余曲折を経て、ようやく成し遂げられたものでした。

 

2、宗名論争・両堂再建

乗如が継職した翌年の宝暦11年(1761)に親鸞聖人500回忌が勤まっています。この前後の時期、本願寺教団は社会的立場を確立しようと画策しています。宝暦4年(1754)、東西本願寺は親鸞500回忌に向けて、初めて親鸞聖人の大師号宣下を幕府・朝廷に請願するのですが、不調に終わっています。浄土宗の法然上人がすでに2度も大師号を贈られていることを意識してのことだと考えられます。また安永3年(1774)8月、東西本願寺は「浄土真宗」の宗名を公称できるよう、幕府へ願い出るのですが、浄土宗の芝増上寺の反対にあい、実現できませんでした。このような主張を度重ねて行った背景には、学寮を中心とした教学体制を整備していくことで、学びが行き届くようになり、教団全体で、宗派意識が明確化していったこともあります。

また天明8年(1788)1月晦日には、京都大火によって、東本願寺の両堂などが類焼してしまいます。その後、乗如は諸国の僧侶・門徒らとともに再建事業へ取り組みます。ところが両堂再建成就を見届けることなく、その4年後に乗如は道半ばで没してしまいました。両堂が再建され、さらに大門(御影堂門)が完成した享和元年(1801)、乗如の遺思を引き継いで尽力した諸国の門徒中へ宛てて、黒衣・墨袈裟の乗如上人御影【写真】が授与されました。

 

3、故実の伝承

このように本願寺の継職や火災に見舞われることへ対して危機感を抱いていたためでしょうか。乗如は、本願寺に伝来する、様々な儀式や作法などの故実を書き残すよう、代々本願寺の故実を相伝してきた「五箇寺」の寺院僧侶へ度々命じました。

安永年間(1772~80)、堺真宗寺(大阪教区第21組、大阪府堺市堺区)の実厳院真昭(超尊、1732~83)が『安永勘進』をまとめました。また東本願寺が焼失して間もない天明8年8八月、射和(いざわ)本宗寺(三重教区南勢1組、松阪市射和町)の光尊院真詮(超弘、1725~1802)が『禀(ほん)承(じょう)餘(よ)艸(そう)』を著しました。

浄土真宗の教えが後世にも受け継がれていくよう、組織体制の整備と、故実の伝承に苦心した乗如による恩恵を、現代の真宗大谷派も受けていることを決して忘れてはなりません。

 

■参考文献

真宗大谷派教学研究所編『「見真額」に関する学習資料集 「大師号」と「勅額」 第2版』(真宗大谷派教学研究所、2015年)

「地方門徒の信仰・組織・運動」(『真宗本廟(東本願寺)造営史―本願を受け継ぐ人びと―』真宗大谷派宗務所出版部〈東本願寺出版部〉、2011年)

 

■執筆者

松金直美(まつかね なおみ)