迷いの身に気づく

著者:藤井善隆(大阪教区即應寺前住職)


仏・法・僧を、三つの宝物、「三宝」といいます。宝といいましても、私たちを支えてくださる宝です。お金は確かに大事です。けれども真実に支えるものではないでしょう。

私のご門徒さんに、八十才になられるおばあさんがおられます。お連れ合いが亡くなってその大きな屋敷を全部お金に換えて、大きなマンションのてっぺんに住んでおられます。ところが後に財産を譲っていくお子さんがおられないのです。それで結構なところに住んでいても「寂しい寂しい」とおっしゃっているのです。お金はどうでもいいとは言いません。でも、それは私たちを本当に支えるものにはならないのです。やがてそれはみんな置いていかねばなりません。

大切なことは、本当にこの人間に生まれてよかった、「ありがとう」、「おかげさま」と毎日を生きられるような帰依処をもっているかどうかです。支えるものを間違ったら、この人生が一体どこに立ち、どこへ帰っていくのかわからず、ぐるぐると回っているうちに、結果は寂しく、むなしい人生になっていくのではないでしょうか。実は我々、みんなこの環状線に乗っているのです。乗っていない人は一人もおりません。しかし「環状線に乗っているなあ」と、気づかせてくださるのが南無阿弥陀仏の教えなのです。「迷っているなあ」と気づいたらさっと元に帰るところがあるのが南無阿弥陀仏です。行きづまったら必ずさっと元へ戻る、帰らせていただく立脚地がどんな人にもあります。如来の弘誓願を聞信すれば、どれだけ迷っていてもいいんです。安心して迷っていける。仏さまは迷うなとはおっしゃっていません。「迷うておるぞ」と気づかせてくださる。この迷いを機縁にしてさっと立ち返ることができる。そしてまたこの現実の娑婆世界のいろんな問題を担って、命ある限り生き生きと、それぞれ与えられた大事な仕事、その人にしかできないその仕事を担っていく。仏さまのご恩を知り、ご恩に報い応えて生きていく道を、お互い見つけていきたいと思います。

『仏さまのお弟子になる -帰敬式を受けて始まる歩み-』(東本願寺出版)より


東本願寺出版発行『真宗の生活』(2018年版⑥)より

『真宗の生活』は親鸞聖人の教えにふれ、聞法の場などで語り合いの手がかりとなることを願って毎年東本願寺出版より発行されている冊子です。本文は『真宗の生活』(2018年版)をそのまま記載しています。

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