伝道掲示板 

小さなものほど

大きな理由がある

(まど・みちお)



能登半島の入口に位置する()(くい)市中心部にある本念寺。毎年9月下旬に行われるこのお寺の報恩講は「羽咋の法事」と称され、お寺に続く参道には数多くの露店が立ち並び、大勢の人出でにぎわいを見せます。

住職の飯貝孝介さん・坊守の朋子さん。この法語は「掲示板法語集」から朋子さんがアレンジ

本念寺は幼稚園(羽咋幼稚園)も経営していて、伝道掲示板は、幼稚園の入口でもある寺院通用口にあり、お寺に出入りする門徒さんのほか、園児を送り迎えする親御さんたちの目にも留まります。「お寺のことをあまり知らない人や若い世代の方が見ても、関心を持ってもらえるような言葉がいいかな、と思って選んでいます」と話す住職の飯貝孝介さん。






住職に就任して、2023年1月で丸10年になる飯貝さんは、京都精華大学芸術学部で版画を専攻し、卒業後も大学に残って14年間、講師を務めました。2009年に羽咋へ帰り、先代住職である父・庭田信孝さんに付いてお寺の法務を学び始めます。「父は、安田理深先生や藤元正樹先生を大事にしていて、時間があれば京都などへ聞法に出かけていました。でも掲示板に張り出す法語は、どういうわけか主に俳句の中から念仏の教えに通じるものを選んでいたように思います」と飯貝さん。


住職がこれまでに制作した掲示板用の法語ポスター


飯貝さんが父から掲示板を任されたのは住職に就任して5年後の2017年です。飯貝さんが選ぶ法語は、仏教関係者の本からの抜粋のほか、若いころから好きだったグラフィックデザイナーで版画家の横尾忠則さんの著書中の文章、映画やTVドラマの中のセリフ、テニスプレーヤーの松岡修造さんの言葉など、その出典は多方面に及びます。そのせいもあるのか、時々、坊守の朋子さんから”ダメ出し”されることもあると言います。

 


「掲示板に張り出すのは私の役目なのですが、単に機械的に張るのではなく、その言葉の意味を私なりにかみしめ、皆さんに届くように、と願って張ります。だから私自身も納得がいく言葉でないと」と話す朋子さん。2022年からは朋子さんも法語選びに加わるようになりました。法語を選ぶ者と張り出す者、住職と坊守の真摯な共同作業で生まれる本念寺の掲示板は、約3ヵ月ごとに更新されるということです。


「正信偈講座」最終回


先代から受け継いだものにもう1つ、門徒さんらを対象にした仏教講座があります。飯貝さんはいろいろ考えた末、1回目として「正信偈講座」を2019年3月から始めました。毎週木曜日の夜、1時間、お寺の庫裏の一室で、飯貝さんが講師になり、「正信偈のなかみ」と題して講義。コロナの影響で予定より半年遅れで去年11月、全35回の講座を終えました。

 



「私は系統立てて仏教を学んだ経験がないので、自分も勉強するつもりで法語を選んだり、講座を開いたりしています」と話す飯貝さん。その姿勢に頭が下がる思いでした。



(能登教区通信員・経塚幸夫)

『真宗』 2023年1月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:能登教区第2組本念寺(住職 飯貝孝介)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。