経典や仏画などは、絹や紙などの弱い素材に描かれていることから、保護・装飾するために表装がされています。この技術は仏教の伝来とともに中国より伝わったとされています。

 平安時代には優雅で華麗な絵巻物が作られ、鎌倉時代に発展した「床の間」や、その後の茶の湯とともに、書などの軸装や障子などが広まりました。特に京都の表具師による表具については、「京表具」といわれ、伝統工芸にも認定されています。

 表具師は掛軸や屏風だけでなく、御影堂の障壁画「八功徳池図(はっくどくちず)」や阿弥陀堂の望月玉泉(もちづきぎょくせん)(ふすま)の表装の修復の他に日常生活で使用する襖や障子(しょうじ)など、「紙」に関する建具(たてぐ)のことは、ほとんど表具師の仕事で、国家試験もあることはご存知でしょうか。

 表具は、紙と裂地(きれじ)(布)と木でできています。そして、それらを継ぎ貼り合わせるのが(のり)です。これらは天然素材であるがために、時間の経過と共に傷み朽ちていくもので、劣化を少しでも緩やかに抑えることができれば、長く形を保つことができます。それ故表具師は腕を磨き、新たなものも取り入れながら、創意工夫し発展していきました。

 その技術は、東本願寺の軸や障壁画などを修復する際にも生かされています。特に表具の修復には、その素材や状態に合わせて古糊が使われます。古糊は、カビの発生が少ない大寒(だいかん)に小麦のでんぷんと井戸水で炊き、年一回夏場にカビの除去や水の入れ替えをするなどの手入れを行い、10年ほど寝かせて作ります。10年寝かせた古糊で表具の裏打ちをすると、接着力としては弱いながらも、しっとりと柔らかく仕上がります。

 表具師は、目の前の軸や屏風(びょうぶ)、障壁画などの修理を考えるだけでなく、次回の修理のことも考えて修理を行います。そうした仕事が過去の人々の記憶を次の時代に引き継いでいきます。

協力:宇佐美松鶴堂(公式HPはこちら

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