東本願寺では、御影堂の障壁画「八功徳池図(はっくどくちず)」をはじめ、金具や彫刻にさまざまな場所でデザインされた蓮を見つけることができます。

 蓮はお釈迦さまととても深い縁がある植物です。誕生したお釈迦さまを大きな蓮華(れんげ)が受けとめたというお話や、誕生直後に歩いた足跡に蓮華が開いたというお話があります。

 このようなお話は、仏さまの「仏座(ぶつざ)」には蓮がほどこされていることからしても、蓮によって、「仏の(さと)り」を表され、やがてお釈迦さまが仏さまになることを象徴しているのかもしれません。

 蓮はきれいに整地された陸地でなく、湿った汚い泥の中できれいな花を咲かせます。それを(たとえ)えに、煩悩(ぼんのう)の泥の中にあるものにこそ、覚りの心が生じるということの意味を伝えようとしています。

 御影堂の親鸞聖人の御真影(ごしんねい)の両脇には、明治期の日本画の巨匠、幸野(こうの)楳嶺(ばいれい)によって描かれた紅と白の蓮華の障壁画で彩られています。この障壁画は「八功徳池図」といい、天然の鉱石を砕いた顔料と、牡蠣(かき)(はまぐり)(から)を粉にした胡粉(ごふん)が使用されているといいます。

 胡粉は西方から中国へ伝わった粉という意味で、シルクロードを通り仏教とともに伝わったといわれています。白色としても、また、顔料などを混ぜて淡い色にする具材としても使われます。胡粉は、風化させた牡蠣の殻を水と練り合わせて粉砕し、細かい粒子だけを選別して天日で乾燥させて作るため、完成まで十数年かかることもあるといいます。

 また、顔料の中で多用されるのは、岩石を砕いて作った岩絵具(いわえのぐ)です。岩絵具は同じ鉱石でも砕き方の度合いや加熱の程度によって微妙に異なる色になり、その種類は約2,000色に及ぶといわれます。同じ色を出すのが難しい岩絵具を、どう使いこなすかは職人絵師(えし)の腕の見せどころでした。絵師たちは絵具を混ぜ合わせたり、塗り重ねたりして工夫したといいます。

 この障壁画の白い蓮華は胡粉で、紅の蓮華は白の胡粉地に臙脂(えんじ)で描いています。また、池は天然の鉱物アズライトから作られた「焼群青(やきぐんじょう)」で描かれています。そして、蓮の葉や芯は「若葉緑青(わかばろくしょう)」や「焼緑青(やきろくしょう)」で描かれており、これは孔雀(くじゃく)石(マラカイト)という鉱石を砕いて岩絵具にしています。アズライトも孔雀石もとても高価な鉱石ですが、幸野楳嶺は光の当たらない暗い御影堂の中でそれらを使用して生き生きと見えるように描いています。

 この「八功徳池図」は、2011年に勤まった親鸞聖人七百五十回御遠忌にあわせて修復され、職人たちの手によって御影堂内で使用されていた蝋燭や御香の煤汚れが落とされました。そして、100年経たってもなお鮮やかな蓮の色が、今日も御影堂を荘厳しています。

協力:宇佐美松鶴堂(公式HPはこちら

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