甘夏
(名畑 直日児 教学研究所研究員)

先日、愛知県の知人から甘夏が送られてきた。その方とは、この数年、直接お会いすることが出来ないなかで、電話でお互いの消息を確認しつつ、真宗の教えを話し合うような時間をいただいていた。段ボールを開けると、甘夏が敷き詰められており、赤い南天の花と通信が添えられていた。甘酸っぱい匂いと、鮮やかな色が跳び込んできた時の喜びはこの上ないものだった。お礼の電話をすると、「無農薬で太陽の光をいっぱい浴びていますよ」の一言とともに、ご自宅で育てられている様子もうかがった。送りものを通して、相手の存在を尊ぶ心に触れた瞬間だった。
 
振り返って自分の日常生活を考えると、国際情勢の悪化を背景にした物価上昇も重なって、値段のついた商品を手に取りながら、商品の見た目や大きさと値札を天秤にかけている自分がいた。一方で日本国内外を問わず、過酷な労働条件で働く人たちによって、商品が届けられているという報道を思い出しながらも、自分の都合を優先している姿も見えてくる。
 
清沢満之が、亡くなる二ヵ月前、親鸞聖人の誕生会たんじょうえを開くのを聞いてしたためた文章が「他力の救済」として残されている。そのなかに、次のような一節がある。
 

われ他力の救済を念するときは、我物欲の為に迷さるること少く、
我他力の救済を忘るるときは、我物欲の為に迷さるること多し、
(『清沢満之全集』第六巻、岩波書店、 二〇〇三年、三二九頁)

 

親鸞聖人の誕生と聞いて、他力の救済が思い起こされたのだろう。生涯をかけて聞法求道するなかで出会った親鸞聖人の教えが、他力の救済を念ずる自己として、清沢自身に開かれてきたといえる。そのなかで見えてきたのが、物欲に振り回される自身の姿だった。清沢は、当時不治の病とされた肺結核を患いながら、宗門改革運動に邁進する一方、家族を養っていかなければならない重圧に苦しんでいた。また生まれた子どもの跡継ぎ問題をめぐって家族間での確執も起きていたのである。
 
この「他力の救済」には、親鸞聖人の教えとの出会いから、物欲に振り回されるあり方を超える道と同時に、そのようなあり方を深く見つめる眼差しが示されている。「他力の救済」の最後には、親鸞聖人の他力の教えに対する報恩感謝の言葉が書きつづられている。自分の都合でしか目の前のものが見えない我執のこの身が、自分自身を苦しめ、他人を傷つけていることを知らせようとする本願他力の声を教えられているように感じた。
 
(『真宗』2023年5月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)
 

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