石川県野々市市、市役所のすぐ近くに常讃寺はある。ダムの建設によって現在の場所へと移転した。かつては田圃ばかりの場所であったが、区画整理が進み今は商店や団地が立ち並んでいる。
お寺の前を通ると目を引くのが、張り出された子ども会などのお知らせの数々だ。お寺での行事について、住職、副住職、准坊守の3人にお話を伺った。住職は「化身土の会」(『教行信証』講義)や「お寺でシネマ」(映画鑑賞)、副住職は「南無の会」(真宗入門講座)や「絵本の会」、准坊守は「ママカフェ」や「おゆずり会」など、それぞれが主体となってこれらの行事を行っている。この中でも、不要となった衣料品や雑貨などを集めて欲しい人が自由に持ち帰る「おゆずり会」は、SNSなどで評判が広がり、前回の開催では400人以上が集まる人気行事になった。
これらの催しは、すべてが教化ということを意識されて行っているものではないそうだ。「お寺に足を運んだ人が仏教に関心を持つかどうかは私たちのあずかり知らない所」「ここのお寺さんはこういうことが好きなんだと知ってもらえるだけで十分です」と副住職は言う。
住職、副住職は外に出て法話をする機会も多い。もちろん時期ごとにお寺での法要も勤まる。そんな中でこれらの行事をすべて行うのは多忙のように思えるが、どこか余裕のある印象を受けた。それはこれらの行事が気負って始められたものではなく、それぞれの興味関心から始まっていること、そして思いついた行事の実行を認め合える信頼関係によるものだろう。チームワークの良さは、毎朝家族そろってお朝事を勤めることからもわかる。
毛色の違うそれぞれの催しは、お寺という場所が人との交流の場所になるということで一致し、中にはこれらをご縁に自然と法要に足を運ぶようになる人もいるという。3人の活動がうまくかみあっているように思えた。
最近ではお寺離れという言葉が使われ、どのようにお寺に人を寄せれば良いのかという声を聞く。「お寺が置かれている条件は違う。お寺にいる人によってもやりたいこと、できることが変わってくる」という副住職の言葉を思い出す。常讃寺に15年続く「お寺でシネマ」は、誰かと一緒にこの映画を見たいという気持ちから始まったそうだ。
手段の模索ばかりに囚われるのではなく、自分の興味のあるところから始めてみる。そこから生まれるご縁もあるのだろう。
(金沢教区通信員・藤 光弘)
『真宗』2023年10月号「今月のお寺」より
ご紹介したお寺:金沢教区第三上組 常讃寺(住職 藤場俊基)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。