気質かたぎ
(藤井 祐介 教学研究所嘱託研究員)

職人わざという言葉は日常的に用いられているが、職人気質かたぎが話題になることは余りない。何よりも気質という言葉を耳にする機会がない。気質は、ある集団に属している人が持っている特徴的な性格を意味する。気質がかたに通じるとするならば、気質は人間の型を表現している。古くは武士気質や町人気質があり、時代が下れば書生気質もある。いずれの気質も失われてしまったが、現代においては職人気質のみが残っているようである。
 
職人気質を定義することは難しいが、職人気質という言葉を聞けば、頑固さ、真面目さを連想する。職人の頑固さ、真面目さは職人特有の時間意識を伴っている。その一例を職人語録から引用する。


 
「職人の仕事なんていうものは進歩はない。進歩しちゃいけない。道具でも何でも、昔からのものを使ってんのが、いちばんいい仕事ができます」(永六輔『職人』、岩波新書、一九九六年、二四~二五頁)

 

進歩に背を向けているかのようである。しかし、「進歩はない」ということはない。職人の世界にも変化はある。仕事を通じて経験を重ねれば、成長もある。時間が止まっているわけではない。
 
「進歩はない」という言葉は、ゆっくりとした時間を表現しているのだろう。急いではいけない。日々、一歩一歩、進むことに意味がある。
 
民藝運動の中心にあったやなぎ宗悦むねよしによれば、「伝統の力」と「並ならぬ修行」が職人気質を形づくる。伝統も長期にわたって継承されてきたものであり、修行も一日で終わるようなものではない。柳宗悦は「無名の職人」たちについて「自分ひとりでは力が乏しかったとしても、祖先の経験や智慧ちえに助けられて、力ある仕事をし得たのであります」と述べている。そして、「私たちは自力じりきの道のみが道でないことを知ります」とも言う(柳宗悦『手仕事の日本』、岩波文庫、二〇〇九年改版、二五五~二五六頁)。急激に変化する時代にあっても、職人は先人たちを手本として歩むことができる。
 
ここで注意しなければならないことがある。それは、職人気質は職人にとって目的ではないということである。品質を維持すること、消費者から信頼されること、利益を得ることといった目的が先にあり、その目的を達成するために頑固さ、真面目さが必要とされるのである。職人気質が消えつつあるということは、目的が変化しつつあるということでもある。できないことを無理して短期で実現しようとすれば、職人気質など一掃しなければならない……ということになる。目的には良いものもある。悪いものもある。


(『ともしび』2024年3月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)


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