震災十三年
(御手洗 隆明 教学研究所研究員)

本年一月一日午後四時十分発災の「令和六年能登半島地震」に被災された皆様に心よりお見舞い申し上げる。
 
災害が発生すると被災地のことが心配になる。とにかく現地からの様々な情報、特に被災者に関する数字を注視し、現地訪問の機会につなげている。これは「東日本大震災」(三・一一)の救援活動を行い、その後も調査研究を続ける先人たちに習ったものだ。
 
二〇一一年三月十一日午後二時四十六分に発災した三・一一の十三回目の「震災の日」が過ぎた。この大災害による犠牲者は、二〇二四年三月現在、東北三県を中心に全国で死者一万五九〇〇人、行方不明者二五二〇人、震災関連死者三八〇二人を数える。最大約四十七万人いた避難者は、二万九三二八人が各地で避難生活を続け、その九割が福島県民である(本年三月十一日読売新聞)。昨年より行方不明者は三人減り、震災関連死者は十人増え、避難者は一五五六人減った。死者数は一昨年と同じである。また東北三県の災害公営住宅では、これまで計三五五人のいわゆる「孤立死」が確認されたという(同NHK)。
 
発災後、内閣府などが毎月発表していた被災者に関する数字はのちに四半期ごとになり、今は不定期になった。発災時に出された「原子力緊急事態宣言」は継続され、福島県のメディアは県内の放射線量の数値を、天気予報のように報じる。異質に見えるが、これが震災後の日常である。他にも現地からは様々な数字が発信され、そこに生きる「人」と生活の情況を伝え続けている。
 
被災地と呼ばれる地域への訪問を続けるなかで、発信される情報の意味や意図を考えるようになった。以前も福島県浜通り地方のいわゆる原発訴訟で、原告側が放射性物質に由来するとして示したある病院の患者数が、実際は通院患者の延べ人数ということがあった。国や東京電力の出す数字も、原発政策を批判する側が示す数字も疑わしい。このような情況のなか、放射性物質の分からなさと向き合い続けていることもこの地域の日常なのだが、発災時より懸念された健康被害の大量発生が、今のところ確認されていないことは幸いだと、私は考えるようにしている。
 
教学研究所は、三・一一の問題に取り組むため、二〇一二年七月に「震災と原発」研究班を立ち上げ、震災三回忌にあたる翌年三月以降、「震災の日」を中心に東北三県の被災地訪問を行った(拙稿「被災地を歩く─教学研究所フィールドワーク十年─」『教化研究』第一六九号、二〇二三年参照)。
 
三・一一を「教学の課題」と捉え、「まず現地に足を運ばなければ何も見えてこない」ことを共通の認識とし、被災地訪問を継続することが方針であった。現地の大谷派寺院を拠点とし、寺院・門徒を通して被災地の今を見つめ、その土地に生きる人々と出会いを重ねていった。その報告を、本欄などに掲載することで宗門内外に向け発信を続けた。
 
津波・地震・原発事故という災害の性質や避難期間の長短により、被災の重さや「復興」についての考え方はそれぞれ違い、報告者の受けとめも違う。しかし、十年間の報告を読み通すと、実は皆同じことを感じていたことに気づく。それは、「教学の課題」として考えるという共通の認識があったからかもしれないし、訪問を続けることでようやく聞けた言葉への感動があったからかもしれない。
 
宗教者は、人のつらい場面に立ち合うことを避けることはできない。苦しむ人を前に何ができるのかと自問自答すれば、人と人との関係にいきつく。どのような情況でも、一人の人間が苦を受けることに変わりはないのだから。それが唯一の接点であり、人と向きあうことが原点であった。人々から被災の記憶が遠のいても、つちかったつながりは続く。「教学の課題」として考えることを忘れてはいないか、これからも試され続ける。
 
(『真宗』2024年5月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)
 

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