真宗大谷派には、北米、南米、ハワイに海外開教拠点があります。今回は、北米の葬儀の事情と、葬儀をお迎えするまでの別院と門徒さんのご関係の一端を紹介いたします。ロサンゼルス別院輪番(兼北米開教監督)の伊東憲昭さんにお話をお伺いしました。
【十分な準備期間のある葬儀】
葬儀が執り行われるにあたって、日本と北米では大きな違いがあります。日本では、お亡くなりになった直後に葬儀が執り行われますが、北米では約2週間後から1ヵ月後に勤められるのが通例です。それは、家族をはじめとして関係者のみなが集まれる日を選んで勤められるからです。葬儀の日まで、丁寧に時間をかけてゆっくりと準備していきます。
【パーソナルヒストリー(故人略歴)】
葬儀までの間、遺族は故人のパーソナルヒストリー(故人が生まれてから亡くなるまでの歴史)を作成します。これが本当に大切な仕事です。そして、葬儀の時に式次第の一つとして遺族或いは開教使からその朗読があります。親戚や故人を憶う色々な方への聞き取りをもとに作成するため、家族はもちろん参詣者も、故人の知らない一面を見ることになります。英語と日本語で読まなくてはならないときは、その翻訳も開教使の仕事の一つです。そして、その略歴をもとに法名を選定し、故人から託された願いを法話にしてお話しします。略歴は、過去帳にも残されその後の法事の際に、故人の人柄や人生をしのび、しみじみと「こういう方でしたね」という話をし、代々受け継がれていきます。
【遺族のお気持ち】
葬儀までの間、家族は開教使のところへ来て色んな相談をします。儀式を悔いなく勤め故人を送り出したいというご遺族の気持ちを受け止め、輪番は時間をかけて遺族のお話を聞き取ります。遺族からは、故人が遺したメッセージを大切にしたい。そういう思いから、たくさんのリクエストが届けられます。
「歌は故人の好きだった歌を」と希望されたときは、お寺の合唱団が歌の練習をして、お葬式で歌うようにします。
【葬儀を縁として】
葬儀をきっかけとして、集まられた方々のご縁を確認し更なるご縁が広がります。伊東輪番の法話の冒頭は、「今日は○○さんのお葬式です。参詣された皆さん一人一人が故人とご縁がありました。考えてみると故人がこうやって私たちを集めてくださいました。昔の友だちとの再会または新しい友だちができるまたは仏法を聞く機会を与えてくださった」というお言葉から始まります。白骨の御文のお話などをもとに、仏教の視点で、いただいたいのちを生き通すことの大切さなどが語られます。
僧侶には、儀式を執り行うことがまず求められますが、葬儀に至るまでの丁寧なお付き合い、前の日の設営を含めた様々な準備と全体のコーディネートが求められます。
【グリーフケア】
ある日、伊東輪番に、遠くに住んでいる友人から一本の電話がかかりました。
「友人がもうすぐ亡くなります。仏教徒ではないけど仏教をとても尊敬しているご夫婦で、婦人が癌を患い死が近い。夫人のケアをしているご主人に電話をしてあげてくれないか」と。この電話から、伊東輪番は、ご夫人が亡くなる数年間、何度も電話やメールで話して色んなお話を聞きました。ご夫人が亡くなって、伊東輪番は御本尊を用意し葬儀に行きました。葬儀は遺族の自宅の庭で執り行われました。
式の最後に、娘さんが「さようなら」と言いながら綺麗な箱をあけると、たくさんの蝶々が青空に飛び立ちました。お庭で執り行う葬儀だから出来たことです。アメリカの葬儀は、色々なかたちがあり自由です。その中にも、仏教のメッセージを伝えながら、ご家族が死を受け入れるまでのプロセスに宗教者としてともに寄り添っていきます。
【日曜礼拝-サンデーサービス-】
毎週、日曜の午前中に礼拝があります。日曜礼拝では必ず法話があります。ひと月のスケジュールはおよそ、1週目は祥月法要、3週目が子連れ向けの家族礼拝、2、4、5週目が基本の日曜礼拝です。毎週、日本語と英語のグループに分かれて法話を行います。1週目と3週目の月2回、子ども向けの法話も行います。最後の週は法話とディスカッションとなっています。
ディスカッションでは、様々なことが語られます。自分や知人の経験。の経験のこと、自分のことではないこと。癌で苦しみ死が怖いと告白する人にどうやって声をかければよいのか…。開教使だけではなくみんなで共有する場です。アメリカでは、宗教家は精神的なケアもしてくれるという認識があり、みなさん気軽に相談される習慣があります。
【別院を支えるメンバーと開放されたお寺】
アメリカでは、お寺の運営は理事会が行います。僧侶は、仏教の教えを伝えるリーダーとして、その役割がはっきりしています。メンバーの支えは強く、お寺の維持のためにバザーなど様々な催しが行われています。
総じて、儀式や仏教の話に感動してお寺に来る人もおられますが、アメリカのお寺はとにかく入りやすいことが特徴的です。新しく来られた方が継続してこられるように、その人の隣に座り、丁寧に質問に答え、開教使・メンバーのそのような地道な活動が信頼となり、葬儀やグリーフケアに繋がっているのだと感じさせられました。