岐阜市大門町にある上宮寺では、年に一度「岐阜アートフォーラム」を開いている。(フォーラムとは「集まる場所」という意味)
600坪に渡る広い敷地を利用した展示を通して、さまざまな年齢、感性、立場の人たちがお互いを尊重し、表現者・鑑賞者の区別なく、一緒に一つの創作活動に取り組んでいくことを願いとしている。
上宮寺の小笠原 宣住職は、画壇の芥川賞といわれる「安井賞」※を受賞。自身も芸術家だ。そのご住職が「寺院空間における美術文化の創造と発信」を宗に、アート仲間たちと共に寺院を生かしたまちづくりに取り組む試みの一つが、このアートフォーラムである。
《岐阜アートフォーラム》
https://gifuartforum.wordpress.com/
※安井賞―新人洋画家の登竜門とされ、具象画を対象とし1957年~1997年まで設けられた。
◆生命(いのち)」を表現するということ
3回目を迎えたフォーラム(2019年10月12日~20日開催)のテーマは「純情動物園Ⅱ」であった。そこには、さまざまな動物の造形によって、生命(いのち)が表現されていた。
開催案内
画家・小田隆氏による芸術作品「ウマ」がメインビジュアルに
私たち人間は、作品をとおして、作者の行為を感じることや、描かれているものから何かを思い起こすことがある。
動くはずのない平面や立体物の中に、生命が描かれていると思うことができる、
あるいは、それが骨や遺骸などであっても私たちはそこに生命を感じていくことができる。
作品を鑑賞して、いったい何が生命をならしめているのか、そんなことが思われた。
境内には動物を感じる造形がそこかしこに
お寺ザウルス出現!(左)、「born as a life」林 隆一(右)
「生命(いのち)」を表現することに必ずしも生きたモチーフが必要であるわけではない。実在するものをただ写すだけではないこと、描く、造形する、という行為を人間が行う以上、生命の発露が痕跡として残っていくのだ。」
(小田 隆/生命(いのち)」を表現するということ~パンフレットより抜粋)
フォーラムは会期中、土日が2回来るように毎回1週間ほど開催している。より多くの人に来てほしいということである。近所の子どもたちにも大人気で、「毎年来る子たちが増えている」とご住職は話された。
作品は、絵画であることはもちろん新聞紙で造形された動物や、ご住職が制作した打敷などが展示されていた。どの作品も独創的で目を離せなかった。
上宮寺に棲む 「獏と獅子」小笠原 宣
「地のいきもの」佐藤昌宏
庫裡にはアートグッズが並ぶ ワークショップ「写動物」
◆ワークショップやシンポジウム
お土産コーナーには、作品をモチーフにしたTシャツなどのグッズや缶バッジが販売され、その売り上げはフォーラムの活動資金に充てられている。
ワークショップも2つ開いており、とても好評であった。
1つは、元となる絵に半紙を当てて透かしにし、それをなぞって書き上げる「写動物」(写真右上)。
もう一つは「楽がき」である。荻下丈くんの作品に子どもたちが好きなように絵を描いていき、一つの作品として表現するものである。荻下くんの作品「ジョーサウルス」と子どもたちの楽書き(写真右)。
◆荻下 丈くん-2004年岐阜県大垣市生まれ。岐阜県大垣市在住。アートビリティ登録作家。アートバンクアルテルフェア登録作家。作品からは、のびのびとしたパワーをが感じられる。
シンポジウム-「生命(いのち)を表現するということ」では、OKBギャラリー館長の古川秀昭氏と出展作家の小田隆氏より、作品に流れる心、表現することの大切さなどが話された。
お寺は一般的に「入って良いものかがわからない」と言われるが、フォーラムをとおして、その見えない垣根が取り払われてきているようだった。町の人たちは、気軽に境内に入ってくることができるようになったという。
ご住職は気軽に入ってこられた来客に、お寺の良さを伝えてみたり、本堂の案内や簡単な法話をされているのだそうだ。「行事の参詣者も増え、町とお寺が一体となっていくことが感じられている」と言われた。
ご門徒が息子や孫の友人に声をかけていったところ、だんだんと来てくれる人が増えてきた。若い人の割合も増えてきている。過去にはSNSによって話題になったこともあったという。
今後の取り組みについて、「ワークショップによるお寺体験等を取り入れて、近隣の寺院も含めて盛り上げていきたい、地域の寺にしていきたい」と話す、小笠原住職。楽しんで仲間を作っていくことが大事であり、その場の一つが「岐阜アートフォーラム」である。
(岐阜教区通信員・内山徹郎)