茨城県の中程に位置するひたちなか市にある正安寺。このお寺では地域の方と協力して「てらこや」や「食堂」、「カフェ」など、多種多様な取り組みを行っています。今回は正安寺が開催する各種取り組みについて、内容や願いなどについて取材させていただきました。
ひたちなか市の子どもの居場所運営支援事業として、近隣の中根小学校の5・6年生を対象として、月2、3回、放課後にお寺を開放して、勉強の見守りやボードゲーム、夕食の提供をしています。学校の宿題をするかゲームをするかは、参加する児童自身が決めています。
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主に不登校の児童を対象として、木曜日の日中にお寺を開放して学習支援やボードゲーム、昼食の提供をしています。「正安寺てらこや」同様、参加する子どもは勉強やゲームなど、何をするかは自由に決めています。
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毎月第3日曜日の昼に、無料で食事を提供しています。また、ボードゲームができるカフェも同時に開催しています。
毎週金曜日の日中に、いわゆる生活困窮者のために食糧支援を行っています。先に挙げた「正安寺しょくどう」と同時に開催する場合があります。
毎月第2月曜日に、子育てに関する相談や情報交換の場所として開催しています。
3月、6月、9月、12月の最終日曜日の午後に、家族や友人など親しい人などを亡くして深い悲しみに暮れる状態(グリーフ)の人に対して、その悲しみに寄り添いサポートする目的で、思いを自由に語り合える場を提供しています。
今回、上記の取り組みを実施する目的やその願いについて、増田直住職と増田真紀子坊守にお話を伺いました。
―「正安寺てらこや」を始めたきっかけを教えてくださいますか。
増田直住職 もともと正安寺では、毎年8月に門徒さんのお子さんやその友達の子にご案内をして、サマースクールを行っていました。ここ数年、特に子ども食堂が社会として取り組み出されてきた時に、「この地域ではどうなのだろう」と思い、困っているお子さんの実態をひたちなか市に聞き取りに行きましたら、思ったほど数値に現れておらず、いろいろお話する中で市の事業として、当時は学童保育の対象外となっていた小学校5・6年生を対象とした放課後の居場所を作るという話を聞きました。ひたちなか市としては小学校の高学年は社会に出る準備期間としており、民間の施設で色々な人と触れ合ってほしいという思いがあったとのことで、要請を受けて「正安寺てらこや」を始めました。
増田真紀子坊守 私たちが子どもの頃は、学校が終わったらすぐに遊びに行っていましたが、今の時代は「人の家に遊びに行くのは、家を汚すなどして迷惑がかかる」という考えがあり、「親が働いている間、子どもは家にいて食事もカップラーメンをあげている」という話も聞きましたので、きちんとした食事を子どもたちに提供したいという思いがありました。「正安寺てらこや」では、ボランティアの方たちと一緒に、子どもたちに手作りの夕食を提供しています。
増田直住職 ありがたいことに、近くの農家さんにもご理解いただき、ご協力もあって食材等全てご寄付で成り立っています。
―お寺で行っているメリットみたいなものはありますか。
増田真紀子坊守 お寺であるという信頼があると思います。ひたちなか市内で、自宅で行っている所もありますが、人が集まらないという話も聞きます。もともと20年近くサマースクールをやっていたこともあり、参加していた子が来たり、以前サマースクールに参加した子が手伝いに来ることもあります。
増田直住職 お寺は場所や設備が整っていますし、そこにずっとある地域に根差した場所です。場を開いていれば、時間はかかるかもしれませんが人は集まる要素はあります。その中で「正安寺てらこや」を始めてから、参加しているお子さんで不登校の方がいたため、「正安寺てらこや」とは別に不登校の子を対象とした「正安寺ふらっと」を始めました。
―「正安寺ふらっと」は、ひたちなか市などの行政に呼びかけて始められたのですか。
増田直住職 「正安寺ふらっと」は、社会福祉協議会さまはじめ助成金を申請して行っている事業になります。不登校の方に関しては、その方の居場所を開いてるネットワークや親御さん同士のネットワークがあったりします。私は青少年相談員をお受けさせていただいておりますが、学校の先生方と情報交換をしていますと、あくまで知り得たこの地域での話ですが、不登校の子はいじめが原因というのは少なく、また反抗心や反発心からではなく、人との関わり方がすごく苦手な子、あるいは学校という社会に馴染めない子が多いという話を聞きます。別に学校で友達がいないわけではありませんが、人との関わり方に対して難しさを抱えている子が多いということです。「正安寺ふらっと」に関しては、特別受け入れる範囲を設けず、他の自治体の子どもも来ています。学校に戻ってもらうような方針とはせず、「自由に来て、自由に過ごして下さい」というスタンスで行っています。
―過ごし方が自由であれば、こちらに来て勉強をするお子さんもいらっしゃるということでしょうか。
増田直住職 勉強が好きな子は勉強を、ゲームが好きな子はゲームをすればいいのですが、騒がしさの中では勉強に集中することは難しいですよね。勉強の遅れに対して不安を抱えるお子さんは確かにいますので、木曜日に行っている「正安寺ふらっと」とは別に、火曜日に「正安寺ふらっとプラス」として学業支援という形で行っています。どちらにも来てる子もいますし、木曜だけしか来ない子もいます。親御さんは、不登校の子どものための居場所に来ることで学校が出席扱いになるか心配されているので、この辺りの小学校や中学校の校長先生と「出席扱いにならないですか」とお話しして、「ご報告いただければ、出席扱いとします」と連携するところまでやっています。
正安寺では食糧支援も行っておりますが、スタートは「正安寺てらこや」「正安寺ふらっと」の事業とは別となります。お寺では上がり物を多く頂くことありますが、この地域では農家が多いので時期物の野菜を有難いことにたくさん頂戴します。「充分な量がありますので、必要な人におすそ分けしましょう」となり、食糧支援として「TeToTe」を始めました。
「TeToTe」も「正安寺ふらっと」も、始めてから1年も経っていないのですが、登録数は増えてきています。食糧支援を行っていると、例えば「ライフラインが止まっている」という方がいらっしゃいます。ですから、野菜をお分けしても調理ができない。そのような方のために、炊き出しとして「正安寺しょくどう」をまずは月1回から始めました。全て無料で、助成金をいただいて行っています。正安寺でのゲームといえば、ボードゲームがメインで50種類ぐらいあります。今度「正安寺しょくどう」と合わせて、坊守発案で、地域のボードゲームクラブにご協力いただき「ボードゲームカフェ」という形で、食堂とボードゲームとカフェと、あと駄菓子屋みたいなものも併設した形で開催しようかと考えています。
昔は「人に寄り添う」とか「人を頼りにする」とか、当たり前のこととしてやっていましたけれど、今は頼ったり寄り添うという、人同士の関係性が薄れているように思います。そんな時代の中、子どもを育てる女性の大変さ。女性だけでなくもちろん男性もそういう方がおられますが、その大変さは外からは見えない部分があり、その立場に立たないと分かりません。では「誰が分かってくれるの」となった時に、同じ立場の人じゃないと分かりません。そのような方々の悩み相談、愚痴でも何でも構わないですけど、そういった今抱えている悩みなどの相談ができるように、主に坊守が担当の「ママカフェ」を行っています。
―「ママカフェ」は具体的にどのような経緯で始められましたか。
増田真紀子坊守 もともと東日本大震災による福島の原発事故があり、隣接する東海村にある原発への不安もあり、ママたちが「ちょっと集まっておしゃべりできる場が欲しいよね」という声があって、それから「原発も放射能も少し落ち着いたかな」となっていったところで、「お母さん達って孤独に子育てしてるよね」という意見が出てきました。月1回集まっておしゃべりしながらご飯を食べることができる場所が必要だというところから始まったので、8年ぐらいやっています。毎月おいしいお食事を食べながらおしゃべりをしましょうという会で、こちらからコンセプトをもって始めたものではありませんが、なるほど必要だなと。
―いろいろな悩みに応じて、取り組みを細分化しているように見えますが、それぞれに特化してしまうと運営が難しそうなので、取り組むのにエネルギーが必要ではないかと思います。
増田直住職 ある研修でお聞きした話ですが、田中角栄さんの時代はまずもって食べ物なんだそうです。だから誰かと大切な話をするときには、まずおいしい食事に誘ったそうです。その後の時代、私たちの時代というのは、お金なんだそうです。だから無理を言われても、お金が発生するのであれば「喜んでやります」となります。では今の時代はどうかというと、承認なんですよ。お金もあるし食べ物もある、では何を求めてるかというと、自分の承認なんです。「認められたい」っていう、「こんな自分じゃダメだ」とか、年齢に関わらず誰でも悩みはあるわけです。他の人と比べてね。それこそ「そのままでいい」という浄土真宗の、仏教の「そのままでいいんだ」と認めてあげる居場所、拠り所という場所は、これからすごく大切になってくると思うんです。他と比べることなく受け入れてもらえる居場所ですよね。
増田真紀子坊守 地域の方で、「正安寺てらこや」などのボランティアから門徒になる方もいらっしゃいます。報恩講のお手伝いまでしていただいて、ありがたいことですよね。住職を気に入ってくれたとか、私を気に入ってくれたとかいうところで、「ここいいね」となっています。
増田直住職 一番理想なのは、それぞれの「居場所」になればいいということです。あくまでも私の考えは「居場所」です。こちらのイメージで創り上げることはせず、「居場所」としてスタッフも参加者も自由に過ごしてもらい、共に創り上げるその時間を楽しんでいただければ。そこから生み出されるものを大切にしたいと思っています。
増田真紀子坊守 参加者やスタッフが「私の居場所」って思ってくれています。例えば、「正安寺しょくどう」をやりますと、「私がコーヒー淹れたいから」って子がいるからカフェができて、その子が「カフェやるから飲みに来てよ」って他の人を誘ってくれるということがあるので、それが大事だなと思うんですよ。「お寺がやってますよ」「お寺に来てください」というよりも、参加してる方たちがそれぞれお誘いする形で広がっていく感じがします。
(東京教区通信員平松正宣)