落語で絵解き!新たな試みを始める一例

落語で絵解き-近藤通信員落語家と住職の掛け合いによって進む絵解き。廣專寺での開催の様子をご紹介します。岐阜県大垣市墨俣町、長良川近くにある岐阜教区第11組廣專寺では昨年までの10年間、報恩講で少し変わった親鸞聖人伝絵の絵解きを行ってきました。プロの落語家に絵解きの台本を渡し、住職と落語家の掛け合いで絵解きを行うというものです。昨年の12月の報恩講では最終回ということもあり、多くのご門徒さんが足を運んでいました。

 

台本制作の経緯と出会い

この絵解きの台本は、大阪教区第22組南溟寺の住職である戸次公正氏が書かれたもので、戸次さんは、かねてより報恩講での「御伝鈔」を「もっと分かりやすく伝えたい」と思われており、次第に絵解きに興味をもつようになったそうです。そして1994年から1幅ずつ、4年をかけて絵解きの台本を自ら書き起こし、報恩講で披露されてきました。

なぜ自ら台本を書き起こしたのでしょうか。戸次さんが絵解きの資料などを探された当時は絵解きに関する資料は古いものしかなく、ならば自分で作ってしまおうという思いから台本を書き起こされたそうです。当初は外に出すことは考えていなかったそうですが、本山で行われる補導の学習会をはじめ、絵解きに関する学習会や研修会に招かれる機会が増え、その際自らが書いた台本を配るようになったそうです。

廣專寺の住職の近藤龍麿氏は、その戸次さんの台本の話を耳にし、単調になっていると感じていた報恩講に、よりご門徒さんに来ていただけるような新しいことをしたいと考え、戸次さんの元を訪ね、この台本の使用許可をいただくことになりました。

落語で絵解き-岐阜教区通信員
台本の一部①
落語で絵解き-岐阜教区通信員
台本の一部②
落語とのコラボ

最初は住職自ら絵解きを行う予定だったそうですが、ちょうどその頃、東京で落語の修行をしていたご門徒の息子さんが、名古屋の大須演芸場を拠点にして雷門(かみなりもん)幸福(こうふく)という名で落語家として活動をし始めたという話を耳にされました。近藤住職は、「これはもっと面白いものになるかもしれない」と考え、雷門氏の落語を聞いてみようと大須演芸場に出向き、その場で「彼に台本を託してみよう」と思われたそうです。そして後日連絡をとり、雷門氏に出演の許可をいただくことになりました。

こうして、住職と落語家の掛け合いによる絵解きがスタート。雷門氏が全体を語り、要所毎に住職による親鸞聖人のお言葉が拝読されます。その親鸞聖人のお言葉の後、ご門徒の方々が念仏するという流れです。廣專寺では2日間報恩講が勤まる為、1日目の午前・午後、2日目の午前・午後の4座で絵解きを行ったそうです。落語の口調で語られる絵解きは聞きやすく、分かりやすいと評判になりました。

 

雷門幸福さん-岐阜教区通信員会場の設営と落語家を招くにあたり

さて、落語家をお寺に招くということはあまりないことかもしれません。そこで近藤住職にどんな準備が必要なのか、会場の設営はどのようにしたのかをうかがってみました。
まず、会場に必要なものとして落語家の方が使う高座を用意する必要があります。廣專寺には、昔使われていた法話用の高座があったそうです。しかし、長い間使われずかなり傷んだ状態で保管されていました。それを、落語家を招くということで、ご門徒の方に相談したところ、住職と共同で懇志を出し合い、修繕することになったそうです。
その高座を参詣席の御代前寄りに設置し、隣に御絵伝を掲げます。御絵伝は本来4幅ですが、台本の構成上4幅を2幅にしたものを使用する方が都合が良かった為、新しく用意されたそうです。そして、御伝鈔拝読の一式を設置して会場ができあがります。

また本堂の大きさにもよりますが、本番の際にはマイク等の拡声装置一式が必要になります。マイクはできればピンマイクを準備できると落語家の方が動いても声を拾うことができます。
落語家の方に対する接待としては特別必要なものはなく、法話の講師を招いたときのように、お茶やお斎を用意していれば大丈夫とのことです。しかし、実際に招いてわかったこととして、私服で来られて着物に着替えるわけですから、着物や必要な小物一式を広げられるようなスペースの確保、つまり広めの控室があると良いとのことでした。

 

まずは動いてみる

近藤住職は報恩講の勤め方について常に考えておられました。戸次さんの絵解きの台本の話、そして、ご門徒さんの家族にプロの落語家がいるという話、断られる可能性がありながらもまずは行動を起こしてみるという、考えるだけにとどまらない住職の姿勢が、このようにかたちとなって繋がっていったのでしょう。なにか新しいことを起こそうとするとき、思うだけでなかなか動けなかったりすることが多いと思います。しかし、小さな情報でもご縁でも、まずは動いてみることでひとつひとつがつながり、新しい可能性が広がっていくということを今回の取材を通じて感じることができました。

(岐阜教区通信員 近藤 龍譲)

►雷門幸福氏の公式ホームページはコチラ