「エンド オブ ライフケア
─どこまでも自分らしく生きられるよう─」
<真宗大谷派奥羽教区 本田 雅章>
交流集会第二日目には、長島愛生園、邑久光明園を会場に三つの分科会が開催されました。第三分科会は、山本英郎氏(邑久光明園自治会副会長)、青木美憲氏(邑久光明園園長)、加藤めぐみ氏(ハンセン病回復者支援センター)をパネリストに、旭野康裕氏(ハンセン病問題に関する懇談会交流集会部会)をコーディネーターとして開催されました。この号では、シンポジウムの中で話された内容を四つのポイントにまとめて報告いただきます。(解放運動推進本部)
(一)療養所の現状
全国の療養所入所者平均年齢は八四.八歳(二〇一六年五月現在)です。療養所では、自治会活動や全国ハンセン病療養所入所者協議会によって入所者の権利が守られてきましたが、高齢化に伴って自治会活動が弱体化しつつあります。
これまで患者と家族の関係を分断するという隔離政策のため、入所者同士で身の回りのお世話をする「世話人制度(後見人制度)」がありました。もともとこのような制度があったわけではなく、軽症や若年の方たちが、年上の人たちの身の周りのお世話、買い物のお手伝い、外出の補助など、一般には家族が行っていることを「世話人」という形で行ってきたのですが、この制度も高齢化によって崩壊しつつあります。
普段の生活だけでなく、何か大きな治療を受けるような場合、ご本人と話し合って治療方針を決められない時には、世話人との相談で決定してきました。高齢化に伴い、世話人とも相談できなくなると、医療従事者だけで治療方針の決定を行わなければならなくなり、入所者の人権を守るという観点からは、とても危うい状況になっていきます。
一方、退所された多くの人は、医師・看護師・介護士に、ハンセン病の後遺症を理解してほしいと思っています。地域の中でハンセン病回復者であることを隠してきたけれど、隠さずに話しのできる信頼できる関係を望んでいます。退所者も人生の最晩年を迎えつつあります。これまでどのような思いで生きてこられたのか、私たちがしっかり聞いて、共に取り組んでいくことが求められています。
地方自治体においては、「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」第五条(地方公共団体は、基本理念にのっとり、国と協力しつつ、その地域の実情を踏まえ、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する責務を有する。)の条文が無視されて実施されていないという問題も起こっているのが現状です。
(二)「エンド オブ ライフケア」
これまで終末医療とか、緩和ケアといって、主に終末期のごく短い期間のケアが行われてきましたが、「エンド オブ ライフケア」とは、今から亡くなられるまでの長いスパンで、数年間に亘って、その人らしく生きるためのサポートを行うことです。これは療養所だけでなく、全国に広がりつつある動きです。その人がその人らしく生きられるよう、医療の面だけでなく、生活も含めて支援するという考え方です。
このような取り組みは一般の病院でも始まっていますが、療養所の場合は、単に医療を提供するというだけでなく、入所者の生活の現場そのものの施設です。「エンド オブ ライフケア」は苦難の人生を余儀なくされた入所者にとって非常に大事なテーマとなっています。
世話人制度が難しくなってきた現在、医療方針の決定も、医師が勝手に決めるのではなく、入所者を取り巻く様々な職種の人たちがチームを作って決定すべきで、一人ひとりにとって、どういう治療がいいのかを、みんなで考える仕組みが必要です。
今までに世話人が行ってきた仕事を、メンバーを構成して引き継いで行っていく。具体的には医療の分野であれば、医師・看護師・介護員・医療ソーシャルワーカー・理学療法士・管理栄養士らでチームを構成し、医療以外では、現場の看護師・介護員・ソーシャルワーカーの意見が重要になってきます。
どこまでも自分らしく生きられるよう、入所者すべてから、過去・現在・未来への思いを聞き取る作業も行われています。
(三)人権擁護委員会
邑久光明園では、認知症が進んだ入所者の免許証返納問題に端を発し、二〇一一年十二月に人権擁護委員会が発足しました。これまで、自治会が入所者の権利を代表する立場で、園に対しての要望も含めて話し合いを行ってきましたが、高齢化に伴い自治会活動ができなくなると、入所者の人権に関わる大事な事柄や園の運営に関して、園が単独で判断しなくてはならなくなります。全国ハンセン病療養所入所者協議会が無くなれば、国が単独で判断することもあり得えます。
そうした危機感から、入所者の権利を守る何らかの組織が必要ということになりました。入所者の人権に関わる問題を、国や園が単独で判断するのではなく、自治会の意向を取り入れながら、自治会の意向を代弁してくれる人に入ってもらう。それが人権擁護委員会です。
そのような取り組みに地域がどうかかわっていくのか。大阪府で取り組まれている「療養サポーター制度」では、市民の目から精神科病院等の問題を洗い出し、それを行政の課題としていく作業を行っています。療養所においても、同じような取り組みが必要ではないでしょうか。入所者の外出支援などの取り組みも、地域との連携で進めていけないものか検討を進めています。
(四)もう一つのエンド オブ ライフケア
高齢化に伴い回復者も療養所も終末期を迎えつつある今、私たちに求められていることは何でしょうか。今、生きている人が、どこまでも自分らしく生きられる目線での支援が必要です。遺骨や納骨堂の問題、亡くなられた方々が遺されたものを、どのように引き継いでいけるのか。それぞれの地域で、これまでのハンセン病の歴史とどう向き合っていけるか、私たちに与えられた課題はまだまだ続いています。
高齢化社会をどう生きるか、人の尊厳とは何か、人権とは何か。私たちが見失いがちな問題に向き合うことが大切です。ハンセン病問題から突き付けられる普遍的な課題を、お互いに関心を持って、尊重しあって生きていく。これが人類共通の課題であり、終わってはいない、また、絶対に終わらせてはいけない問題であり、それが謝罪し続けることになると思います。
邑久光明園・ふれあいホールで開催された第3分科会
真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2016年11月号より