お寺の教化事業、特に「同朋の会」を開催することの重要性は、いたるところで強調されてきましたが、「そうか」と思ってもなかなか立ち上げることができない寺院が多いのが実情です。
もちろん、どうしても開催できない事情があるお寺もあるでしょうが、何かしらの「出遇い」によって、勇気を得たり、面白さを感じたりすることで、「同朋の会」を立ち上げることができるお寺は、実は多いのではないでしょうか。
この「出遇い」を、偶然にまかせず、事業として意図的に作り出した名古屋教区第2組の同朋大会を紹介させていただきます。
「どこかに新しい試みを行っている同朋大会はないだろか?」と情報を求めている方々にも、是非お届けしたい情報です。
<大会の内容>
開催日:2020年2月19日(水)/会場:雲澤寺(愛知県半田市)
◇10:00 開会・勤行
◇10:30 組長挨拶(竜沢悟氏)
竜沢さんの短い言葉に、この大会にかける思いが、すべて表れていました。
「苦しみ、追い詰められた人々にとって、家庭でもない、職場や学校でもない、第三の場所(サード・プレイス)が必要です。私は、お寺がサード・プレイスになればいいと思う」。
今回の組同朋大会が、どうして「同朋の会」の立ち上げに力点を置いた内容なのか、その意図を伝えたいという組長さんの思いがしっかり伝わってきました。
組としては約30年ぶりの「組同朋大会」。組執行部の願いであった「グリーフケア」、「組推進員養成講座」を教化の現場につなげるために、任期の最期に「第2組同朋大会」を開催されました。
◇10:35 講話(寺院活性化支援室支援員 竹原了珠)
講師「最初に質問をします。仏教の歴史で、はじめて「集い」を持ったのは、だれでしょう?」
ご門徒「・・・お釈迦さま?」
講師「大当たり!では、お釈迦さまは、最初から意欲をもって、集いを開いたでしょうか?」
ご門徒「・・・・」
講師「お釈迦さんもね、最初は、そんなことしたくなかったんです。覚った内容は、欲にまみれた人にとって難解で、どうせみんな分かってくれないだろうし、私が疲れて虚しくなるだけだ、と一度は心を決めたんです。でも『梵天』という神が『大変だ!お釈迦さまが教えを人々に伝えることを断念したら、世界が、人間が壊れてしまう』と思って、神の世界を飛び出して、人間の世界のお釈迦さまの前にあらわれて、「どうか人々に伝えてください!」とお願いしたんです。
お釈迦さまでさえ、説法を躊躇したんです。僕たちはなおさら、会を開くのはしんどい。でも、世界は、人は、『このままでは壊れてしまう』と、集いを求めているんです」。
◇11:30 「お寺が取り組んでいる集い」の発表(意見交換)
すでに「同朋の会」を取り組んでいる三カ寺からの発表。
①定例学習会(「満覺寺門徒仏弟子の会」)※詳細は画像データをご覧下さい
②様々な形の会(「信光寺女性会」)※詳細は画像データをご覧下さい
③子ども会(「蓮念寺夏休みこどもお経教室」)※詳細は画像データをご覧下さい
一カ寺ずつ10分程度にまとめて、非常に有意義な情報を教えてくださいました。
「同朋の会」を立ち上げる背景や心境、継続的に行うための工夫など、気づきがたくさんありました。
◇12:15 昼食(弁当・豚汁)・休憩
午後からの「課題別同朋の会」の部屋に分かれて、昼食・休憩をします。
昼食の豚汁は、推進員の有志の方々が、開会に間に合うように朝8時から集まって調理してくださいました。
◇13:00 課題別「同朋の会」
この時間は、5つの部屋ごとに、模擬的な「同朋の会」を行います。大会参加者には、あらかじめ希望を聞いた上で各部屋に分かれ、体験していただきます(①②は第2組のこれまで重視してきた事業。③は2023年に本山で勤修される慶讃法要に向けての稽古。④⑤は、「仏事の場が「『同朋の会』となるよう」という願いによる内容です)。
①グリーフケア<悲しみを大切に生きる>
②親鸞聖人<関東の門弟と親鸞聖人>
③お勤め<慶讃法要に向けて>
④仏華<仏華のこころ、慈悲のこころ>
⑤念珠作り<世界に一つだけのお念珠>
<グリーフケア>の部屋
第2組が行ったグリーフケアの講座を、各寺の「同朋の会」で実践という位置づけです。
体験という枠を超えて、心に深くしみ込む言葉が、参加者から次々とあふれてきました。
<親鸞聖人の学び>の部屋
第2組が以前行った「真宗門徒入門講座」のテキストを使って、親鸞聖人の人生に学ぶ「同朋の会」。
講師を務めた組内住職が「実は以前からやってみたかった」とのこと。組は、お寺へつなげる勇気を育む場にもなるのですね。
<お勤め>の部屋
第2組の僧侶で、名古屋別院で声明儀式を専門的になさっている列座さんに、講師を務めていただきました。「お勤めの稽古の途中で終わってしまいましたが、不慣れな中でも懸命なご門徒の姿がすごく嬉しかった」と反省会で感想をいただきました。
<仏華>の部屋
ご門徒宅のお内仏でもすぐに応用・実践できる仏華。笑いもある、和やかな雰囲気でした。「(仏華では)皆さん花材が同じなのにそれぞれ生け方がちがって、楽しい会でした」と反省会で感想をいただきました。
<念珠作り>の部屋
キャンディーのような色とりどりの念珠の玉がよりどりみどり、見てるだけで楽しい部屋でした。「お念珠の話をしはじめたところで、豚汁をこぼしてしまって、話はそこで終わってしまい、たった3秒!ちゃんと話を考えていたのに!(笑)」と反省会での報告でした。
◇14:30 全体会
各部屋の参加者の感話と、講師からのまとめ。
感話に立たれた5人の方々が、参加された感想をお話しくださいました。あわせて「どうして、私がこの『同朋の会』を選んだかというと・・・」という、選んだ背景もお話されていました。『同朋の会』に参加するということは、自分の背景を辿ることでもあるようですね。
◇15:00 閉会・恩徳讃
<企画にいたった経緯(竜沢組長)>
「三年前、組長をお引き受けして、まず『グリーフケア』、そして教区指定ではなく組独自で『推進員養成講座』を取り組みたかったんです。前組長の任期中も教区指定の推進員養成講座を実施して推進員は誕生したんですが、『同朋の会への一歩が難しい』『推進員って何をしたらいいんだろう』という声があったので、もう一度、組で講座を開いて、さらに『同朋の会というのは、こういうものです』ということを実際に体験し、感じて欲しかった。お寺に帰って『あのとき、こういうことをしたから』と、同朋の会がお寺で生まれるきっかけづくりをしたかったんです。その体験のなかには、大切だと感じている『グリーフケア』もいれて、模擬的にやってみようというのが、今回の企画のもとです。
<スタッフ反省会(抄録)>
「(グリークケアでは)思った以上に深い話を聞けたし、一人一人の悲しみを確かめ合えて大切な時間でした。大切な人を失ったという話は簡単にできないので、場作りが大切だと思った。最初に推進員さんに口火を切ってもらい、だんだんと自分の体験、グリーフ(悲しみ)をお話しくださいました。」
「うちのお寺で主導的な立場の門徒さんが『うちの寺でやってたことは間違いじゃ無かった。また新しいことをしよう』といい顔をされていてよかった」
「あるご門徒が『子どもと高齢者の会はあっても、働き盛りを対象にしている会はないなあ』という声がこころに残っています」
「(念珠作り)何かをいっしょに作るのは話しやすい場。ただ、言葉が飛び交いすぎるのと、お世話が行き届かないこともあり、もうちょっとゆったりした広さがあればよかったかな」
「非常によかった。個人的な心残りは、一つだけでなく、二つ参加したかった(笑)」
「各末寺に広がって行ければ」
「お勤めの稽古の途中で終わってしまいましたが、不慣れな中でも一生懸命なご門徒の姿がすごく嬉しかった」
「自分の未熟さを十分に感じた、とても良い会でした」
「自分たちのお寺でもはじめよう、という機運がおこった良い同朋の会だった」
「本当に大成功!実は最初は、どうなるんだろうと思っていました(笑)。みんなの力はすごいなと、つくづく思いました。こんな楽しいなら、もっと早く坊守会でも(仏華の)先生に来ていただいたらよかったのに(笑)と思いました」
「本当に良かったと、みなさんに感謝してます。組の2年の歩みを経て、このような良い会になってよかった」
<竜沢組長へのインタビュー>
質問者:こういう形の組同朋大会は、全国でもなかなか無いと思います。もともと同朋大会は、会をさらに推進するための取り組みの場が本来の姿だったと聞いたことがあります。そういう意味では、「原点回帰」という印象があります。でも、同時にとても新しいと感じます。それは、「教化フェス」「教化見本市」と言っていいような、考えられる限りの教化を、同時にいくつもの部屋を、そして楽しんで体験できる。これはとても新しいと思いました。この企画を生み出す源泉はどこにあったんでしょうか?また、実際に開催されての気づきがあれば教えてください。
竜沢組長:大会や研修の通常の形、つまり、お勤め、先生のお話を聞いて全体座談か質疑応答という、当たり障りの無い形式で行ったら楽。けれども、まったく面白くない。ご門徒に参加してもらって体験してもらう。そして語ってもらわなければなりません。
そして、「そうか!」「なるほど!」という発見。どういうお寺がどういうことをしているのかを発表してもらうと、いろんな発見があるはずです。今回はたまたま三カ寺の発表でしたが、それぞれのお寺がいろいろやっているはずです。その発見が、自分たちのお寺に帰った時の動きになっていくと思います。
また、お寺の取り組みを発表していただく役を通して、組への関わりが広がったのは嬉しかったです。また、課題別「同朋の会」は、住職、若院、坊守、推進員を各会のチーフやスタッフとして担当し、みんなでいろいろ考え、協議しながら作り上げていただきました。このようなことが、ご自身の成長に繋がるはずです。
質問者:通常ではない形の企画ですし、これまでの事業と有機的に連携させた大会でした。私自身、参加してみて非常に意味のある、そして何より楽しい内容だったと思います。けれども一方で、正直なところ、教団全体としてつながりある教化事業をつくることが苦手だという印象があります。第2組でもこういう点で苦心されることがあったと思いますが、差し支えなければお聞かせください。
竜沢組長:今回の組同朋大会で、二年前のグリーフケアからはじまった流れが、締めくくりを迎えました。普通は、三年という任期では大きな事業は一つくらいでしょうが、3つの大きな事業をさせていただきました。当然、否定的な意見もあり、企画を進めることが困難になって、白紙に戻さなければならないような状況もありました。もちろん、組の執行部をはじめ、組内の皆さんや門徒会、推進員方々の協力や後押しがあってやり遂げることができました。2組は、組の教化事業(「サマースクール」など)で関係が深いですからね。でも、一番大切なのは、組長である私自身がどれだけの覚悟や確信を強く持っているか、ということだと思っています。それがないと、できない。おかげさまで僕が思い描いていた、グリーフケアからの流れの大会が、ほぼできました。本当によかったです。後は、組長の任期が終わって自坊でどうするか、ですね。「竜沢さん、何もしとらんですね!」って言われないように(笑)。
質問者:このような大会をお勧めするとすれば、どういう組が適切だと思いますか?
竜沢組長:組内の情報がお互いにあまり共有できていない組は、組内の情報交流が進むので、おすすめできると思いますよ。2組でも、お互いに知ってると思っているようで、あまり知らず、沢山の気づきがありました。
質問者:どうもありがとうございました。
(企画調整局参事・寺院活性化支援室支援員 竹原了珠)