茨城県古河市にある浄善寺。毎週日曜日のお朝事会やご命日のつどいなど、日頃から門徒や地域の方々が集う場所として様々な取り組みを行っています。この「音楽の講」は、2017年に第一回目が開催され、今回はその第二弾。元々は前回同様、お寺の本堂を会場とした音楽ライブを今年の5月に予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、インターネットによるライブ配信に切り替えて10月3日に開催されました。

 

 


 

《「音楽の講」に込められた願い》

 

この音楽ライブを引き受けてくれたボーカル・Hiromi Sudaさんは、浄善寺の坊守さんと学生時代からの親友だそうです。そのような間柄もあって、ふたりは音楽と仏教をコラボレーションさせたプロジェクトを2012年に立ち上げられました。Hiromiさんにも、「ジャズクラブなどに普段行かない方も、身近なところで生音楽を楽しんでほしい」という想いがあったそうです。

 

この取り組みについて住職にお話しを伺うと、「『講』は浄土真宗で昔から大切にされてきました。今回は、音楽を縁として、今の新型コロナウイルス感染症の影響下であっても人々がつながれる講を結びたいと思っています。また、寺=お葬式、亡くなったら関わる場所、というイメージが強いですが、そうではなく仏教は、今、生きている人に届いてほしい教えです。仏教にも、音楽にも、理屈ではなく伝わってくる響きがあるのではないでしょうか。日常の感覚から一歩離れて、本堂の空間に広がる音楽の響きに、ゆったりと身を浸していただけたらと思います」と語ってくださいました。

 

一時は新型コロナウイルス感染症の影響で開催自体が難しいのではと悩んだ時期もあったそうですが、「” Zoom”をうまく取り入れてやってみよう!」と、実現に向け再始動しました。本当は生で聴いてほしいという思いを抱えながらも、今回は感染予防のため本堂はスタッフのみの無観客ライブとしました。それでもできる限りその場で聴いているかのような臨場感が出せるように、音響や映像の機材にも力をいれて準備されました。

 

本堂(会場)とZoomの画面

 

 


 

Hiromi Suda(須田宏美)さん

 

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青山学院大学卒業後、アメリカ・ボストンにある名門バークリー音楽院に入学し、世界の音楽を学ぶなかでブラジル音楽に魅せられる。在学中にはブラジル・リオデジャネイロに3ヵ月間滞在。バークリー音楽院卒業後は、ニューヨークを活動拠点として、世界で活躍するトップミュージシャンとも共演し、ブルーノートをはじめジャズクラブやフェスティバルに出演。一方で、作詞作曲した日本語のオリジナル曲が国際的なコンテストで高い評価を受け、言葉の響きが美しい「Mizu no Utsuwa(水の器)」などを生み出し、計5枚のアルバムを発表。2019年、14年間過ごしたアメリカを後に拠点を日本へと移す。

 

 

 

 


 

《オンラインであっても参加者との交流を大切に》

 

当日の配信は「Zoom(コミュニケーションツール)」と「Facebook(SNS)※ライブ配信機能」を利用。Zoomは参加者の顔が画面をとおして会場側にも映るので、その映像を演者さんにも見えるように大きなモニターを設置し、一方通行型のライブにならないように工夫していました。Facebookも視聴者の書き込んだコメントを逐一読めるように配慮し、曲と曲の間にはボーカルのHiromiさんが書き込まれたコメントに応えられる場面もありました。

 

 

 

演奏の様子

演奏の様子

 

 

視聴者の書き込んだコメントに答えるHiromiさん

 

 

どうしてもオンラインでの配信は演者と参加者、お寺(主催者)の交流が難しくなってしまいます。ですが、今回の取り組みで住職さんと坊守さんが大切にしたかったことは参加者との交流。ライブに参加した人は何を思い、何を感じたのかということを演者さんへ直接届けられるよう、ライブ終了後にはZoom参加者限定で「コミュニケーションタイム」を設けました。

 

坊守さんの進行による視聴者と演者のコミュニケーションタイム

 

 

《今後のお寺の活動と取材後記》

 

今回の取材をとおして感じたことは、一方通行とならないように工夫、努力する住職、坊守の姿勢はもとより、その姿勢に共感してテキパキと持ち場(準備から本番、片づけまで)を動いていた門徒スタッフの姿です。オンライン行事であってもなくても、寺院における教化活動の根底は変わりません。「共創していくことの大切さ」ということを学ばせてもらう機会となりました。このことは、今後ますます寺院におけるオンライン事業が活性化していくうえで、私たちが見失ってはいけないことのように感じます。

 

今回取材させていただいた浄善寺さんでは、11月の報恩講についてもインターネットを活用した配信を計画されているそうです。もちろん、教えとの出会いや人とのつながりが、今までどおりお寺を会処として生まれることを願っていますが、手段の一つとしてインターネットを取り入れることは、今後の教化活動の幅を広げる可能性があるのかもしれません。

 

最後に、コミュニケーションタイムの折に参加者の一人がおっしゃっていた言葉をご紹介します。

 

「顔が見えたことで安心した」ー。

 

身体接触や外出自粛の制限は、コミュニケーションの場を奪い人々を孤独にさせます。家から出ることができなければ、他者と会うことができません。会うことができなければ、言葉を発することなく過ごす一日もあります。そういう不安や孤独が続くなか、「知った人の顔が見えたことはとても嬉しかった」と。

新型コロナウイルスの感染拡大から、今後の寺院活動の課題が問われています。

 

(東京宗務出張所)