チャンネル登録者数5000人、再生回数16万回[2021年12月22日現在] を数える法話動画を配信する『お坊さんの小話』というYouTubeチャンネルがあります。
 

そこで配信されている動画は、月参りに来た僧侶が私一人に話してくれているような身近さがあります。チャンネル内で、再生回数が多い動画のタイトルをみてみると
 

「浄土真宗のお墓はお墓ではない」(16万回)

「『中陰』はなぜ四十九日なの?」(4万回)

「戒名と法名のちがい」(3万回)

「お墓参りの真の意味」(1万回)
 

と、仏事に関するタイトルが並んでいます。法話を聞く入り口として、仏事に関することへの関心度合いの高さが注目されます。
 

動画をご覧になられた方で「法名は死んでからもらう名前だと思っていたけれど、動画をみて、法名は生きている今こそ、もらっておかなければならないと思いなおして、本山で帰敬式を受けてきました」という声も寄せられたとのことです。
 

「お坊さんの小話」の動画配信は総勢6名の僧侶・門徒によるチームプレイで行われています。現代版御示談(※)の場さながらの、活気あふれるYouTube動画撮影の現場を《前編》《後編》に分けてレポートします。

 
※御示談:法話の後、法話を聞いた者が自身の信心の味わいを互いに吐露し批判を仰ぐこと。
 

YouTubeでの配信をはじめるに至った経緯をお聞きした《前編》は、こちら
 
 

チームで臨む撮影風景
 

門徒と僧侶の共創で“どう伝えるか?”の工夫

チャンネルのタイトルは「お坊さんの小話」。

 

あえて「法話」とせずに「小話」。法話へのハードルをできるだけ低くして、まずは「動画を観てみよう」と思ってもらえる雰囲気を出すことを意識してのネーミングです。

 

法話の内容は、配信チームで電話やメールのやり取りを重ねながら作戦会議を行い、視聴者にどうしたら届きやすいのかを考えています。チームには商店を営む人や、法務以外に仕事をもつ僧侶も含まれ、門徒と僧侶の共創により、チャンネルが運営されています。

 

法話の言葉は、生活に根差した日常の言葉で語ることにこだわって収録されます。そして、メンバーが本業で培ったマーケティングの視点を活かしながら、タイトルや視聴者の目につく“サムネイル”と呼ばれる画像には特に気を遣っています。タイトルは動画を撮影した後、スタッフ間であらためて作戦会議を行い、決めているとのことです。(サムネイルには、人の顔が出ている方が視聴者に馴染んでもらいやすいですよとのアドバイスもいただきました。)
 

 

撮影現場はメンバーや若手僧侶の座談の場
 

収録現場やYouTubeのコメント欄も学びの場として大切に

配信チームのメンバーが揃って行われる撮影現場は、まさに現代版の御示談(※)の場といったところで、髙科さんの法話を聞いたメンバーから、さまざまな意見が飛び交います。そのやり取りの中で、法話の内容を練り直し、撮影をやり直すこともしばしば。収録には、髙科さんのお連れ合いさんも毎回同席され、その光景もまた、生活の中で仏法が語られていることの象徴として、とても印象的でした。このように熱気あふれる撮影現場には、近隣の若手僧侶も勉強のために集い、オンラインの取り組みが僧侶の研鑽の場にもなっています。
 

「本当に伝えたいことを伝えるには、一人ではダメ。客観的に聞いてくれる人の大切さがある」と髙科さん。自ら語ることで、まず自らの信心を確かめる、そのような法話の原点を感じました。
 

インターネットを介して不特定多数に動画を配信すると、匿名で様々な批判を受けることもあります。しかし、『お坊さんの小話』では、あらゆる批判も一旦受け止め、必ずコメントを返すことにしています。
 

動画の再生回数が増えるにつれ、いわゆるアンチコメントも増えたそうですが、そのようなコメントにも丁寧に返信をしたり、コメント欄における視聴者同士のコミュニケーションも自然な形で生まれる中で、アンチコメントも減ってきたとのことです。
 

「動画のコメント欄も教えを聞く場として、そこに集う人々と僧伽(さんが)としての交わりを目指したい」と、視聴者との丁寧なやりとりを担保するため、FacebookやTwitterといった他のSNSでの周知に手を拡げず、あくまでもYouTubeの中でのコミュニティを大切にしています。
 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、オンラインでの法話配信が様々な場面で、盛んに行われるようになりました。撮影現場を取材させていただきながら、オンラインの取り組みであっても、その場を通して教えを聞き合う人同士のつながりが生まれ、それが僧侶自らの学びの場ともなる、そんな可能性を感じさせていただきました。
 

寄せられた相談に髙科さんが応える「お悩み相談」の撮影風景
 

僕の法話の原点は枕経

このように動画の配信を精力的に続ける髙科さんの原点は、枕経の場面にあるといいます。「3歳の女の子の枕経で、そのご遺骸が横たわり、その枕元に可愛い人形が置いてある。その場面で、僧侶として何を語るんや?と、僧侶である自分自身に突き付けられたことが僕の原点」。

 

そして、こう続けられます。「真宗のものの考え方は生きる力になる。一人ひとりの生き方が変われば世の中が変わる。仏教が大切にする“伝灯”という言葉のように、僕が灯を灯し、誰かがそれを受け取って、それをまた伝えてくれたら」と、動画配信は命終えるまで続ける覚悟だと語ってくださいました。

 

生活の中で仏法を語り伝えていく…。僧侶としての役割は、オフラインでもオンラインであっても変わらない。そのことを取材を通して強く感じさせていただきました。

《前編》は、こちら
 

『お坊さんの小話』のYouTubeチャンネルは、こちら

YouTubeチャンネル『お坊さんの小話』
現在の動画本数93本[2021.12.22現在]
総視聴回数47万回[2021.12.22現在]
月曜日に「お悩み相談」、金曜日に法話の動画をほぼ毎週新たに公開している。
サムネイルも工夫されている「お坊さんの小話」のYouTubeチャンネル