伝道掲示板 

死にむかって

進んでいるのではない

今をもらって生きているのだ

今ゼロであって当然の私が

今生きている

(鈴木章子『癌告知のあとで』「変換」)

一心寺はJR長浜駅から徒歩五分ほど、通勤通学や買い物、観光の人々でにぎわう駅前通りで、静かな落ち着いた佇まいを保っている。掲示板も通りに面しており、行き交う人々や通行する車が信号待ちをするときにも目が届くところに設置されている。地元の人々のみならず、全国から来られた人々にその時々の生きた言葉が発信されている。

護住職 掲示板とともに

住職のもりいわおさんは、一心寺に入寺されて63年、長浜教区で最年長の住職である。戦時中は学徒で招集され、戦争や軍隊での体験を通じて「武力より強い言葉の力が必要」「言葉の力を信じて、言葉を大切にして生きてゆきたい」と強く願うようになったと語られる。

入寺当初の掲示板は、幅70センチくらいの黒板にチョークで書かれていた。現在の掲示板は1992(平成4)年の秋に設置されたという。護住職は12年前、長男に住職を引き継がれた後も、毎月言葉をしたため続けられた。しかし、その5年後に長男が亡くなられてしまう。悲しみと大きな喪失感の中で住職に復帰され、そして今も60余年にわたって掲示板での伝道を続けられている。

大通りから見る一心寺

寺報「一道」も430号を数え、出遇われた言葉をコラムとして掲載されている。日々の生活で感動したこと、本の中で出遇った言葉について、「人間社会の崩壊を見つめ、人間とは何ぞや」という課題を探りながら、書き続けているという。掲示板の言葉を楽しみに通っているという方もおられ、励ましの声を聞き続けられている。

護住職は掲示板への願いとして「駅前の大通りに面していますので、実に多くの人や車が行き交います。あえぎあえぎしながら生きているお互い、その方々と共に、人生の真実を求めてひたすら歩んでこられた方々の教えのお言葉の中で、特に我が身に響いたものを選び、歩みを共にしていければ」と語られる。

掲示板の言葉の選定についてお尋ねすると「言葉は生きている。時とともに、状況によって響く。人生は言葉との出遇いでもある。一方で、言葉は怖いものでもある。言葉で死に、言葉で生きる。軽率に発することはできない。仏教の言葉は長い歴史の中で育まれた言葉、こちらでは選べない言葉です。言葉にこちらが選ばれるということ。自分の状況を言葉によって知らされていくのではないでしょうか」と応えられた。また、「掲示伝道は、まずは自分が感動した言葉しか出せない。コロナで人との交流が制限される中こそ、掲示伝道の役割は多く、その壁を超えていけるものであると考えている」とも語られた。

住職筆の法語。写真左上は掲示板を目にしていた記者の勧めで、
ご門徒と共同で発行された法語集『諸仏の呼びかけ』

今日も長浜駅前通りで人と車の行き交う日常の中、一心寺の伝道掲示板は静かに私たち一人ひとりの心の奥底にあるものに呼びかけ続けている。

(長浜教区通信員・蜂屋良生)

『真宗』2022年4月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:九州教区三井西組(住職 溝邊伸)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。