2022年10月に修復が完了した阿弥陀堂門。1980年以来、42年ぶりに全面的な屋根の葺き替えがなされるとともに、1911年の建築以来はじめてとなる錺金物の補修工事と木部の補修工事が行われました。阿弥陀堂門の屋根は、御影堂門の屋根とは異なり、(ひのき)樹皮(じゅひ)を使って()かれています。

 この技法は檜皮葺(ひわだぶき)と呼ばれ、7世紀後半にはすでに文献に記録があり、平安時代には最も格式の高い屋根工法とされました。檜皮葺は数多くの寺社の屋根で葺かれ、国宝や重要文化財の建造物だけでも730件程あるといわれています。

 檜皮は、日本古来から用いられ、原皮師(もとかわし)と呼ばれる職人が、ロープで体を固定しながら、木に登り外皮(がいひ)を採取します。採取は、原木が傷まないように、木の中の水分の動きが少ない秋から春先にかけて行いますが、とても重労働のため原皮師は数える程しかいません。採取で外皮をはいだ樹木は、約10年程度で皮が再生され、再び採取できるようになるといわれています。

 採取された檜皮は檜皮包丁(ひわだほうちょう)で荒れた部分やヤニ・節を取り除き、2枚から3枚を先のとがった檜皮包丁で小突き、長さ75センチ、上辺10センチ、下辺15センチの台形に整えます。 檜皮葺の軒先(のきさき)は、土台の裏板の上に檜皮を積み、竹釘で打ち締めます。横部分をすり合わせながら、差し込むようにして積み重ね、手釿(ちょんな)で切り()えます。

 屋根は水で濡らした檜皮を等間隔で敷き、約1.2センチずらしながら重ねていき、天日乾燥させて焙煎(ばいせん)した真竹(まだけ)または孟宗竹(もうそうだけ)から作った釘で打ち付けます。職人は不安定な屋根の上で、口に竹釘をくわえ、片手で檜皮を押さえながら、反対の手で竹釘を取り出して金槌(かなづち)で打ちます。完成した檜皮葺は、軒先は繊細で美しい曲線美を形作り、屋根は柔らかながらも重厚感を(かも)し出し、その耐用年数は30年から35年程度あるといわれています。

 檜皮葺の技法は、平安時代に確立し、その後変わることなく伝えられてきたといわれます。そして日本以外には見られない固有の技術でもあります。

 自然豊かな日本にあって、檜皮の再生をも考え、余すところなく資源を使用する檜皮葺は、「もったいない」の精神に合っているようにも思います。檜皮葺は2020年「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。