子どもたちのまぶしさ
<山陽教区 藤谷 真>

 二〇一四年七月二十四日、私は国立ハンセン病療養所邑久光明園の隣、長島愛生園にあるお寺で緊張しながら子どもたちを待っていました。
 と言いますのも、今年で三回目となる「ワクワク保養ツアーin邑久光明園」に初めてスタッフとして参加させていただくことになりましたが、初日からの参加が叶わず二日目の日程途中での合流となったからでした。
 お寺の玄関の向こう側から子どもたちの声が聞こえてくると、より一層鼓動が早くなるのを覚えましたが、それも一瞬で治まりました。玄関から飛び込んできた子どもたちの笑顔と元気なあいさつに私の強張った心はほぐされたのと同時に、私にとってのワクワクツアーもスタートできたのでした。
 
邑久光明園のイメージキャラクター
「こみょたん」と遊ぶ子どもたち
 これまで「国立ハンセン病療養所瀬戸内三園合同花見」に参加したことはありましたが、教区の交流会には足を運ぶことはなく、ハンセン病問題をわが身の課題として向き合うことをせず、傍観者のような立場でいました。そんな中、昨年交流会でお話するご縁を賜って回復者の方を前にしたときにハッとしました。見も知らぬ若僧がやってきてどんな話をするんだろうという眼差しではなく、それとは真逆のやさしい眼差しでした。
 私のつたない話より、はるかに大切なことをその眼から語りかけられたように感じ、人間そのものを見ない、見ようとしない無関心である自身を教えていただいたように思います。前に立つ私をやさしく見つめ、耳を傾けてくださる姿から、一人の人間と出会うということは相手を知り、認めることではありますが、まず自分自身の弱い部分を知り、問い続けるということが大事であるということに気付かされました。
 それからは交流会に参加する機会も少し増え、回復者の方のお顔と名前も覚え、逆に私の顔も覚えてくださるようになりましたが、私の心のどこかで「声を聞かなければ、出会わなければ」という意識の壁があるせいで、なかなか言葉がでない。回復者の方々とにこやかに話をされている周囲をよそに、どこかで良い格好がしたい、背伸びをしようとしている自分の姿がありました。そのような自分を正面から見つめ直すこともできない日々を送っているところに、ワクワクツアースタッフのお話をいただきました。
 
別れを惜しみつつ最後の記念撮影  ツアーに合流した私は、子どもたちの一生懸命に遊ぶ姿に触発され、スタッフであるということを忘れるくらい私自身も楽しみました。海水浴に花火にスイカ割り。朝は早起きラジオ体操。ベンチアート、流しそうめん、手作りピザ。部屋に戻ればかくれんぼ…休む暇も惜しんで数え切れないほどの思い出を子どもたちは作ったと思います。それは同時にツアーを共にした全ての人に素敵な時間を与えてくれました。
 そのまぶしいばかりの子どもたちの姿を想うときに、日程中何度も一緒に歌った歌、今年大ヒットした映画の主題歌の歌詞が重なって聞こえてきます。
 ありのままの姿、ありのままでいいんだということをそのちっちゃな体で表現していた子どもたち。共に過ごす中で私自身が子どもたちに背中を押されるように、自身の課題と向き合う力をもらえたような気がします。その一方で、まぶしさの裏には福島の現状があることも忘れてはいけないと考えさせられました。
 原発事故による福島を取り巻く状況に対して(例えば除染の問題、被曝について)、どうすればいいのかという正解は今すぐに見つけられないかもしれませんが、国策によって苦しめられた同じ悲しみを持つハンセン病回復者の方々と、福島の親子が共に関係を築いていく機縁となっているこのワクワク保養ツアー。そこに参加させていただいた私自身にとっても良き出会いとなるよう寄り添い、歩み続けたいと思います。
 

《ことば》
「でも、結局破談になっちゃったケースなんて、いくらでもあったよね」

 邑久光明園での夏の保養にお世話になって三年。今年は、入所されている方のお宅でお話を伺う機会をつくってくださった。お身内の結婚式での、両家の人々が幸せそうな笑顔で写る写真を見せていただいた時のこと。
 「でも、結局破談になっちゃったケースなんて、いくらでもあったよね」。
ご夫妻の言葉に、穏やかに見える日常に隠れた厳しい日々を思い、胸が締めつけられた。原発事故後の県内で、親たちが真剣に同じ心配をしていたことも思い出された。
 偏見を持つ人の心を強引に変えることはできない。でも、関わりたくない、面倒は避けたいという心が偏見の根源ならば、減らすことはできるかもしれない。現状を知り、正しい知識を持つことで冷静な判断を下せるのならば、きちんと伝えることが偏見を減らす道であると信じたい。
 重くて悲しい、忘れることのできない言葉だった。でも、もう一つ、あの写真から受け取った大切な言葉の方を、たくさんの人に伝えていこうと思う。
(「ワクワク保養ツアー in 邑久光明園」保養参加者・瀧澤理香)

 

真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2014年11月号より