伝道掲示板 

和顔愛語

(『仏説無量寿経』)

福岡県久留米市に流れる筑後川。「一夜川」とも呼ばれ、昔からその流域に住む人々はその荒々しさと戦いながらも、いただく恵みを大切に生活してきた。多聞山蓮明寺の掲示板はそんな筑後川流域暮らす人々の機微をとらえ歩んできた。現在は主にお寺の前を通る方々が見ることができる様にと、道路に面する場所に一つ、そしてご法事などお寺に縁があっていらっしゃった方々の目に入りやすいようにと、境内に入る参道にもう一つの掲示板が設置されている。

蓮明寺門前の掲示板

道路に面する掲示板は自転車で通る小中高生が立ち止まって眺めていることもあるそう。それでなるべく平易な言葉を使ったり、ふりがなをつけたりして、誰にでも共有してもらえるように工夫しているとのことだ。また参道の掲示板は、その日参拝される方の顔を思い浮かべながら書き直すこともあるとのこと。 「この言葉は私のことだと思いました」と言ってくれたことがある方もおられたとか。

参道の掲示板の前で
住職の溝邊伸さん(写真左)とご家族

蓮明寺の住職である溝邊伸氏は、「お寺は言葉の入り口が必要だと思っています。直接言っても伝わらないが、書いておくと伝わることもある。それは普段の生活の中で言葉が生きてくるということです。自分の課題、門徒さんの課題、地域の方々の課題が共になる。それが教化。そんな言葉を選びたいと思っています」と常に見てくださる方の顔や生活を思い浮かべながら、掲示板と向かい合っている

また参道の掲示板は黒板となっていて、チョークさえあれば誰でも書けるようになっている。お子さんがそこに絵を描いて遊んだりもできるとのことで、子供に限らず掲示板が媒介となりコミュニケーションが生まれ、人々の生活や想いがシェアできるような場となっている。

実際に蓮明寺で昨年十月に開かれた「お寺deマルシェ」ではご縁ある出店者に絵を描いていただき、そこが記念写真スポットとなりマルシェの盛り上がりに一層花を添えたという。

「お寺deマルシェ」では出店者に書いてもらった

法語は教えに沿った内容を前提にして、住職自らが考えた言葉を書くことも多い。「お参りに来て終わり、掲示板を見て終わりではなくて、これからが始まりという、ここから道が開けてくるという言葉を選びたいです」と力強く語る住職の姿から、書く側と見る側それぞれの思いや課題が交わる伝道掲示板がさらに今後も多くの人の目にふれてほしいと感じた。

(九州教区通信員・佐々木信行)

『真宗』2022年5月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:九州教区三井西組(住職 溝邊伸)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。