コロナ下におけるハンセン病回復者の悩みや課題について

沖縄県ゆうな協会 医療・介護の相談窓口担当 ソーシャルワーカー 樋口 美智子

  

■医療・介護の相談窓口の開設

 公益財団法人沖縄県ゆうな協会に、2021年4月1日から新たにソーシャルワーカーが一人配置されました。週一回半日という短い時間ですが、ソーシャルワーカーの配置の背景には、回復者の皆さんが長年要望し続けてきたことや、高齢になり医療・介護の問題への支援が喫緊の課題になっていることがあげられます。

 ソーシャルワーカーの選考は、ゆうな協会から回復者の会や沖縄県ソーシャルワーカー協議会(沖縄県医療ソーシャルワーカー協会、沖縄県社会福祉士会、沖縄県精神保健福祉士協会、沖縄ソーシャルワーカー協会)へ推薦依頼等があり、沖縄県医療ソーシャルワーカー協会理事が担当することになりました。主な業務は、訪問診療・看護・介護サービスの利用や病院の受診・受療等の相談です。

  

■〈相談する〉ことへの支援

 沖縄県には2022年4月1日現在、退所者給与金受給者が403名、非入所者給与金受給者が59名、特定配偶者等支援金受給者が47名いらっしゃいます。全国の退所者の平均年齢が77.1歳ですので、沖縄県でもほとんどの方が高齢に伴うからだ・こころ・くらしの不安や心配を抱えていると思われます。病院のソーシャルワーカーや介護支援専門員には、既に回復者の支援を行っている者もいますが、中には回復者であることを周りに告げないまま支援を受けている方もいらっしゃると思います。一番気がかりなのは、回復者であることを知られることを怖れ、必要な相談ができない方がいることです。それは、誰もが安心して生活することができる権利が護られていないということに繋がります。医療・介護の相談窓口(以下、窓口)でも、多くは「どこで相談したら良いかわからなかった」「友人の回復者以外には相談したことがない」という方です。高齢になり、窓口を訪ねて来ることは元より、電話やメールでの相談もサポートが必要な状況です。

 また、勇気を出して窓口に来られた方や電話をかけてきてくださった方は、同じ回復者以外に自らのことを話すことに慣れておられません。ソーシャルワーカーだからということだけではなく、人間としての交流やハンセン病問題への理解と取り組む姿勢があること、信頼できる人であるということが基盤になければ、相談支援の関係は築けないことを、改めて回復者の方々から学びました。

  

■個々の相談の根底にある不安や悩み

 窓口での主な相談には、「家事ができなくなったら、どのような制度やサービスを利用できるか?」「医療や介護が必要になったら、訪問診療や看護が利用できるか?」「他の病気で入院しても後遺症のケアはしてくれるか?」等があります。それらに共通する不安や悩みは、「回復者であることを話さないといけないか?」ということです。そのことを、ある回復者は「私達回復者が抱える心の後遺症で、根深いものである」と表現されました。

 ソーシャルワーカーは、まず医療や介護・福祉に関する基本的な情報をお伝えするとともに、個別のニーズをご本人と一緒に整理します。そしてご本人自らが、誰とどのように相談し話し合うかを選択し、ご本人が持っている力を発揮し、行動・解決できるよう支援します。ご本人に同意を得て、関係者と調整を行い、状況に応じた信頼できるサポートチームを作ります。ご本人がその過程を、信頼できる人々と出会いながら歩むことが重要だと考えます。

  

■ピア(仲間)の力を活かす相談支援

 時々、退所者仲間の小さな集まりに参加させていただく機会もあります。そこでは「老後をどこで暮らすか?」ということが話題になります。「今、住んでいる所で暮らしたい」という方がほとんどですが、中には「家族に迷惑をかけたくない、療養所への再入所も選択肢と考えている」という方もいます。皆さんに共通する望みは、「小さい頃から一緒に過ごし苦労を共にしてきた仲間と、気兼ねなく想い出話をしたい、それが歳をとってからの楽しみだから」ということです。安心して過ごす場所と、共に過ごす時間が欲しいという想い・願いは、コロナ下で集まることができなくなり、ますます強くなっています。

 特に、これまでハンセン病問題に関する訴訟等では、回復者や家族が一同に集まり活動する機会が多くありました。裁判の判決が出た後は、その活動もほぼ無くなり、()(あい)(友人・仲間の集まり)や個人的な繋がりが、数少ない情報共有の場になっています。窓口の周知・広報にも工夫が必要ですし、窓口に来られない方の所へは出向く必要があります。これまで以上に相談支援活動は、いろいろな場づくりや方法の工夫が必須で、窓口に座っているだけでは回復者のニーズに応えられません。地域で差別や偏見に曝されながらも、力強く生きてこられた回復者や家族の力から学び、繋がりを活かした支援活動が求められています。

  

■ハンセン病問題と専門職の課題

那覇市地域包括支援センター社会福祉部会での勉強会(2021年12月27日)

 このようにソーシャルワーカーは個別に、また少人数の集まり等で支援することが多いのですが、そこから見えてくる組織や集団、地域の課題を発信し、制度やサービスの改善等にも取り組んでいます。沖縄県ソーシャルワーカー協議会では、国政選挙の立候補者に、ハンセン病問題について公開質問状を送付してきました。また、回復者や支援者の会では、回復者の声をまとめ、そこで整理された課題を専門職団体で共有する等、回復者の声を代弁してきました。

 しかし、ソーシャルワーカーもハンセン病問題に関心がある者ばかりではありません。また、医療者や介護支援専門員の中には、ハンセン病回復者の後遺症に対する正しい知識を持たない者も多く、治療やケア、要介護認定調査・審査に回復者の状況が充分に反映されない問題もあります。二〇二二年度には沖縄県ハンセン病問題解決推進協議会(仮称)が発足する予定です。社会福祉の専門職として回復者や家族の声に真摯に耳を傾け、個々が抱えるニーズに対して具体的な支援を行うと共に、回復者や関係機関と一緒にハンセン病問題に取り組んでいきたいと思います。

 

真宗大谷派宗務所発行『真宗』2022年9月号より